第四幕、御三家の幕引
「ただ、言い訳っぽいかもしれないけど……その、聞いてすぐに止めたから。お前の妹も、お前のことを言い触らしたかったんじゃなくて、多分、俺の態度にイライラしてたとか、そういうのが理由で言ったって感じだったし、変に他のヤツらに知られてはないと思う」


 聞いてすぐに止めた? その言葉の意味を考え始めてしまったせいで、続く台詞は頭に入ってこなかった。もし、最初に想像した通り、優実が自分と付き合ってくれない桐椰くんの態度に業を煮やして思わずバラしてしまったというのなら、真っ先にばらすのは私が養子だということだけだ。理由や経緯まで事細かに順序だてて説明したはずがない。それでもって、すぐに止めたというのなら。


「じゃ、優実が、お姉ちゃんは養子なんですよって言ったとこまでしか聞いてないの?」

「……いや、半分血が繋がってるってことも聞いた」


 桐椰くんは、(おもむろ)に口元のマフラーを少し引き上げた。少し目も伏せて、表情を隠すような感じだった。


「じゃ、私のお母さんのほうが不倫相手なんだってことも聞いた?」


 桐椰くんの表情は変わらなかった。もしかしたら、さっきの私の台詞がネタバラしの前振りだと気付いていたのかもしれない。


「だから、三人兄弟で、私は養子だけど、全員半分は血が繋がってるんだよね。お母さんが違うのは私だけだから。そういえば、優実の誕生日が七月だから、月影くんにはすぐバレちゃった。少なくとも私と優実は母親が違うって。頭が良い人の前だと油断して誕生日の話もできないなんて初耳だよ」


 桐椰くんは何も言わない。


「あと、これはこの間鹿島くんに言われて初めて知ったんだけど、うちのお父さんと松隆くんのお父さんがうちのお母さんを取り合ってたんだって。笑っちゃうよね、昼ドラだよ」


 間違いなく新情報であるはずなのに、やっぱり桐椰くんの表情は変わらない。


「なんか、よく分かんないよね、うちのお父さん。今のお母さんを選んだのに、私のお母さんのことが忘れられなくて不倫したんだって。私のお母さんが死んだ後は私のことが心配になって、今のお母さんに土下座までして頼み込んで引き取ったんだよ。なんでそこまでできるのにお母さんのこと選ばなかったんだろうね」

「……あのな」

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