第四幕、御三家の幕引
「あ、そうそう、お母さんと結婚してたほうのお父さんは離婚しちゃった。私が不倫相手の子だって分かっちゃったから。今何してるかも知らないなぁ。だからなのかな、お父さんが私のこと引き取りにくるのも早くて。下手に親戚の手に渡るくらいならくらいの勢いだったよ。最初は全然関係知らなかったから、よっぽどお母さんと仲が良い人だったんだなくらいにしか思わなくて」

「俺が引くの待ってんの、お前は」


 遮られて、いつの間にか早口で(まく)し立ててしまっていたことに気付いた。ずっと表情を変えなかった桐椰くんが、マフラーを引き下げて、声の通りの呆れた顔に変わっていた。マフラーを引き上げていたのは口を噤んでおくためだったと言わんばかりだ。


「別に、しなきゃいけない話じゃねーだろ。話したいときに話せよ、そういうことは」

「……今、話したいって思ったんだよ」

「そういう不純な動機がないときにしろよ」

「何が不純だっていうの」

「お前は俺を試したいだけなんじゃねーの」


 くしゃくしゃと、桐椰くんは茶色い髪を掻き混ぜた。少し困ったように、悩んだように。


「お前が養子だって知ったのに何も態度変えてなかったから、おかしいなとか思ってんだろ。態度変えるにはバラし足りねぇのかなって思ってんだろ。別にどんだけ何言われようが、変わんねーよ、俺は。お前の周りがどうだったかは知らないけどな」


 それは、真逆の反応で。


「……でも、孝実は違った」

「あぁ?」

「元カレは、百八十度態度変わったよ」


 思わず口走った名前と肩書に、桐椰くんは目を見開いた。


「は? お前の元カレって菊池――」

「私が半分血が繋がってるから付き合えないっていうのは分かるよ。まだ理解するよ。でも好きじゃなくなるのは所詮その程度だったってことじゃないの。わざわざ家を出て行って、私に会わないでいいようにするのは、気まずいとかそういう理由だけじゃないよね」

「……孝実って、お前の兄貴か?」


 怪訝な声に、私は何を期待していただろう。


「そうだよ。付き合ってたときは知らなかったけど、半分血が繋がった正真正銘の兄と付き合ってたよ。養子になるんだってときに分かったの。ドラマみたいに葛藤なんてなかったよ、すぐ別れて、お互いなかったことにした」

「…………」

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