第四幕、御三家の幕引

(二)恒久の居場所

「あーきーちゃんっ、あけおめ!」


 飛び跳ねてでもいそうな明るい声が聞こえても、私のテンションは全くあがらなかった。それどころか、目に入った顔が「桐椰くんバージョンテンションMAX」みたいに見えて、かえってテンションが下がった。


「え、なにその顔。傷つくー」

「なんか……今見たくない顔ナンバーワンだったかも……」

「え!」

「彼方って……顔似てないけど……やっぱり桐椰くんのお兄ちゃんだよね……」

「待て、遼の兄だからって理由で嫌われるのは納得がいかない。他の子を好きだとか何を言っても冗談半分でしか返事してくれないとかそんなことを理由に嫌われるのは仕方ないけど」

「それは反省しなよ」


 なんなら言ってる側から冗談半分で返事をしている。はーあー、と声に出るほど深い溜息をつき、今すぐ飲むわけでもないジュースをストローでかき混ぜる。

 彼方はいかにもショックそうな表情のままコートを脱いで私の向かい側に座った。コーヒーを頼んだのでこれは桐椰くんではない。うん。


「なに? 俺の弟が何したの? 亜季ちゃんに迷惑かけてないなら別になんでもいいけどさぁー」

「迷惑……」


 迷惑というのは少し違うのだけど……。考え込むと数日前の光景が思い出されてしまうので「いや迷惑とかそういのじゃないんだけどさ」と無理矢理口を動かした。かといって彼方に話すのは気まずい。彼方だって弟の恋愛話なんて聞きたくないはずだ。お陰ですぐ言葉が止まる。

『知るかよ、バァカ』

 するとやっぱりフラッシュバックした。物理的にその光景を消し去ろうとガンッと額を机の端に叩きつける。優しい彼方でさえ「え?」と怪訝な顔をするのだから、我ながら奇行にもほどがある。


「なに亜季ちゃん、どーしたの」

「いや……なにも……」

「アイツ一体何したの? 無理チューでもされた? それはないかぁ、アイツクソへたれだし」


 運ばれてきたコーヒーを飲みながら、有り得ないとばかりに笑い飛ばされたのがトドメだった。額を抑えたままの状態で凍り付いた私に、彼方の笑顔も凍り付いた。

 ついで、コトリとカップをソーサーに置き、おそるおそる身を乗り出す。
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