第四幕、御三家の幕引
「……マジで?」
「いや、あの、その……無理っていうとなんか語弊が……」
「え、合意?」
「合意じゃないよ! いや合意……合意じゃないけど……」
そもそも「キスしよう」「いいよ」って言ってするキスってあるの? 嫌じゃなければ合意なの? そうだよね男側は好きじゃなくてもキスできるって雅も松隆くんも言ってたから嫌じゃないことのほうが多いよね。でも相手が嫌かどうかってわかんなくない? あれ、じゃあ桐椰くんは私が嫌がる可能性も加味しつつしてる……? もしかして鹿島くんと同類……? いやそんなはずはない! 頭がこんがらがってきて、文字通り頭を抱えた。
「ねぇ……男の人ってどういうときにキスするの……」
「え、したくなったとき」
「彼方に訊いた私が馬鹿でした、すいません」
「えー、だってしたくないとしないじゃーん。あ、いつしたくなるのかってことならトートロジーだな。んー、ノリ?」
「もう黙って」
なんでこんな本能で生きてる男の下にあのピュアな桐椰くんがいるんだ……。彼方が本能にステータスを全部振り切ってしまってる反動?
「でもそっかー、アイツがノリでキスするようになったのかー。副会長もやってるし、一体何の心境の変化なんだろうなー。亜季ちゃんのせいなのかなー」
「私のせい……なのか……」
「まぁいいんじゃないの? アイツ昔から自分のことはあんま優先しないしさぁ、部活もできなかったし、俺も高校生のとき迷惑かけてただろうし……」
「そうだよね、高校生のとき私と遭遇しちゃうくらいやんちゃしてたもんね」
「いやーあの頃は好き勝手やって楽しかったなぁ」
ははは、と声を上げて軽く笑うその様子に後悔はない。確かに、彼方と私は遊び方が違ったもんな……。
「後輩にも会いに行かないとなー、元気かなー」
「彼方ってもう二年生でしょ? ってことは残ってるのは最低でも三つ下からじゃん、彼方のことなんて覚えてないでしょ」
「酷いこと言うな。これでも高校史上指折りの優等生だったんだぞ」
ふふん、と得意気に言ってみせるけど、ヤンキーを漢字変換すると不良なんだから、まかり間違っても彼方が優等生なわけがない。そうでなければその学校がおかしい。