第四幕、御三家の幕引
「あー、信じてないだろ。まぁ俺の次の代のほうが進路実績良かったんだけどさ、俺達の代は遊び過ぎたから――っと」

「あ、すみません」

「あぁ、いえ……」


 そのとき、隣の席に座ろうとした人の足が椅子にぶつかって、彼方は後ろを振り向く。頭を下げているのはおばさんで、彼方にぶつかって謝った瞬間に今度はまた別の人にぶつかっていた。慌てて頭を下げるそのおばさんに、二十歳くらいのお兄さんも「いえ」と彼方と似たような反応をした。

 それを見ていた彼方が「あっ!」と突然叫んだ。お陰でおばさんとその人が揃って彼方を見る。


「……あぁ?」


 そして、突如相手の男の人の顔が不愉快げに歪んだかと思えば、ドスの利いた低い返事が来た。が、彼方は嬉しそうに指を差す。


「トカゲじゃん! 何してんのおま――」

「誰がトカゲだ? あァ?」


 瞬間、彼方の胸倉がとんでもない勢いで掴まれた。最早掴みかかられたなんて表現じゃ穏やかすぎて当てはまらない。相手の男の人が高身長でそこそこ体つきもいいせいで余計にだ。

 その威圧感は彼方に対して放たれるだけでは収まらず、辺りにぶつかりまくってへこへこしていたおばさんは硬直すると同時に後ずさりを始めた。普通に座ってお喋りしていた人達も会話を止めて一斉に視線を向けた。なんなら再開した会話は「喧嘩……?」「店員さん呼んだほうがよくない?」なんて不穏なものだ。


「やー、声かけようと思ってたんだよ。ほら、俺達って今年成人式じゃん? もうモラトリアムも終わりじゃん? その前にお前と一緒にシマ練り歩いて遊ぼうかなって」

「馬鹿か、一人でやれ」

「えー、寂しいじゃん? 青春を共にした仲じゃん?」

「お前なんて信用性のない顧客に俺の青春を売った覚えはない」


 二人は空気に気付いているのか気付いていないのか、彼方はにこやか、相手の男の人は冷ややかな顔で続けている。しかも相手の男の人は彼方の胸倉に掴みかかったままだ。会話の流れからして高校の時のヤンキー仲間かな……。

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