第四幕、御三家の幕引
 と思っていたけれど、妙に男の人のほうに見覚えがある。ストレートでさらさらの黒髪に、彫刻のように精悍(せいかん)な顔……。口調は荒々しいけど、妙に姿勢が良くて、濃紺のロングコートとグレーのマフラーは一見して高級そう……。もしかして松隆くんのお兄さん……いや松隆くんのお兄さんの名前は栄一郎だし、松隆くんと似てないって言ってもさすがに雰囲気くらいは似てるはずだし、そもそも見覚えがあるはずないし……。


「大体お前はなんだ、新年早々また女子を誑かして。相手は高校生か? 淫行条例で逮捕されたほうがお前のためだが相手を巻き込むな」

「あ、もしかしてまだ麻紀ちゃんのこと根に持ってる? だからさぁ、言ったじゃん、俺はちゃんと断ったんだって。というかお前正直麻紀ちゃんにあんま興味なくなかった? フラれたつーか実質フッたのお前だよね?」

「誰がそんな話をしてんだよ大体人の彼女を盗っておいて原因が俺にあるなんて説教始めるとはどういう料簡(りょうけん)だ盗人猛々(たけだけ)しいとはこのことだな」

「いやーでもさぁーやっぱり自分に興味持ってくれないのって女の子にとっては辛いじゃん、どんなに誤魔化しても二番目なのは伝わるもんだし。つか盗ってない、俺ちゃんと断ったって言ってるじゃん」

「それが余計に腹立たしいんだよテメェはそれで俺に義理立てでもしたつもりかクソほどどうでもいい気遣いなんだよ」

「ところで一つ屋根の下のお嬢様とどう? もしかして今JK? 犯罪に手染め中?」

「お前にそんなことを話す義理も必要もないし何も起こりようがないし仮に俺達が女子高生と付き合ったところで即犯罪ってわけじゃないお前はそれでも法学部か六法全書で頭殴りゃ多少その脳味噌にマシな知識突っ込めんのか?」


 じろじろと顔を眺めた後、息吐く間もなく淡々と罵詈雑言の限りを尽くすその人がどうやら女子高生のお嬢様と一緒に暮らしているという情報で、察した。ただ、その人自身の属性と今まさに目の前で暴言の限りを尽くす様子とが一致せず、あんぐりと口が開いた。


「まさか深古都(みこと)さん……」


 大正解らしく、彼方の胸倉を掴む手がパッと開いた。「おっと」なんて彼方はわざとらしいリアクションと共に座り込む。深古都さんは人間にしては妙にぎこちない動きで首を回し、私と目を合わせた。


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