第四幕、御三家の幕引
「何? トカゲと亜季ちゃん知り合い?」

「トカゲ……?」

深古都景(けい)ってフルで書くと読めねーじゃん。都と景、繋げたら都景(とかげ)じゃん」


 けろりとした顔で彼方は答えるけど、酷いニックネームだ。ダサいとかそういう問題ではない。よりによってトカゲ、悪意さえ感じる。


「いや、まぁ、うん、それはいいとして、あの、彼方と深古都さんは何の知り合い……」

「何って番ぐふっ」

「大変ご無沙汰しております、このようなところで失礼致しました」


 まるでバスケットボールのごとく彼方の頭を押さえつけ、深古都さんは姿勢と顔と口調だけはいつかの夜のように執事になった。髪が七三分けじゃないぶん、以前と違って大学生っぽいけれど、やっぱり姿勢の良さが異常だ。


「え、あ、いや……」

「お嬢様のご学友の桜坂様でしたね。いつもお嬢様が大変お世話になっております」


 そして深々と頭を下げられた。ヤンキー同士が「お前どこ中だよ!」みたいに絡み始めた光景に始まったはずがこの有様、突然の変容っぷりに酢を飲まされたような気分だ。因みに彼方はまだ頭を押さえつけられたままだ。


「私の知り合いが失礼をしていませんでしょうか。困ったことがありましたらいつでもこちらへ」

「え、あ、はぁ……」

「では私はこれで」

「おいトカゲぇ」


 私の手に丁寧に名刺を押し付け頭を下げ踵を返す、ここまで僅か二秒、有り得ないほど素早く優雅な行動に唖然とするしかできない私の代わりに彼方が復活する。頭を離された瞬間に深古都さんの高そうなコートの上から腕を掴んだ。


「折角会ったんだから高校行こうぜ」

「申し訳ありませんが、馬鹿とは会話ができない仕様になっております」


 ロボットなのかな。


「いつ聞いてもウケんな、お前のその執事口調。つかどうやって切り替えてんの? スイッチでも装備してんの?」

「では私はこれで失礼します」

「まーまートカゲ、そういわず! 亜季ちゃんもトカゲと喋りたいよな!」


 な! と彼方は畳みかけてくるけど、正直激しくどうでもいい。どう見ても彼方と深古都さんが友達()で、私が部外者なのが丸わかりだ。今日は彼方から鹿島くんの話を聞く予定だったわけだし、深古都さんがいると聞きづらい。

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