第四幕、御三家の幕引
 ただ、そんなことより何より、今この瞬間、この場に居辛い。喧嘩ではないと誰かが言ってくれたらしく、店員さんが割って入ってくる気配はないけれど、一度集まった視線はそう簡単に離れない。しかも深古都さんと彼方の無駄に良い見た目が災いしている。

 こんな状態で呑気にジュースを飲めるほど私の頭は能天気ではない。深古都さんだけを帰すよりも、揃って外に出るほうが得策な気がした。


「まぁ……そうですね……」

「ほらー! とりあえず外出よ、な!」


 深古都さんは迷惑そうな表情になるもおそらく私のせいで彼方を無碍にできず、三人で視線から逃れるように外に出る羽目になった。


「で、どういうことだこれは」


 そしてやっぱり深古都さんの声は冷ややかだった。雪降る今日の風より凍えているかもしれない。


「あ、あのー、えっと、改めまして、桜坂亜季です……」

「深古都景です。お嬢様がいつもお世話になっております」


 が、私と話すと執事モードが発動する。彼方のニヤニヤした顔が一瞬歪んだので首を傾げると、視界の隅で深古都さんの足が動いていた。踏まれたらしい。


「桜坂様はこの馬鹿……色ボケ……常春……クソ野郎……。…………コイツとどんなご関係でしょうか」


 どんなに言い直しても悪口にしかならなかった挙句最終的に代名詞で終わらせた……。私のほうが二人の関係を聞きたい。


「えっと……中学生のときにお世話になったっていうか……」

「世話?」

「だって一人で心配だったから。ほら、西高の近くでモクドナルドがあったとこあるじゃん、潰れて焼き鳥屋になってまた潰れたとこ。あの裏、あんなとこで女の子が一人でふらふらしてたら襲ってくれって言ってるようなもんじゃん?」

「……まぁそれは確かにな」


 深古都さんが胡乱な目を向けるけれど、どんな冷たい目も声も彼方には暖簾に腕押し状態だ。特にやましいこともないなので狼狽えることはないんだろうけれど、飄々と説明するだけだ。


「で……未だに連絡をとってこうして会ってると? 体のいいナンパだな」

「まぁそうかもしれない」

「あ、あの、ふーちゃ……芙弓さんと学校に来た日、深古都さんが現役って呼んだ男子いたじゃないですか。あれが彼方の弟なんです」


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