第四幕、御三家の幕引
「成人式の日だろうがなんだろうが東高に行くなんて言った覚えはないが。大体龍玄なんかに桜坂様を連れて行っていいわけないだろうが」


 粗雑な口調の中に紛れ込む私への敬称、違和感がありすぎる。彼方もいちいちいじるのは面倒になったらしい、「いーじゃん、別にデートってわけじゃないし」とスルーだ。


「というか、どこだろうがお前なんかと新年を過ごすのが気に食わん。折角のオフなのに……」

「オフって。お前まだ執事業やってんの?」

「大晦日前から三が日にかけての辛さがお前に分かるか」


 そっか、ふーちゃんの家も年末年始は外との付き合いでの行事が目白押しなんだろうな……。松隆くんが忙しいせいで年末年始は御三家LINEも動かないって桐椰くんも言ってたし。


「とにかく、俺は帰る。新年早々お前と顔を合わせる羽目になっただけでも幸先良くない……」

「えー、寧ろ旧友に偶然会えたとか幸先の良さしかなくね? まぁそっか、トカゲ来れないなら仕方ないから亜季ちゃんと二人で行くか」

「そうしろ。お嬢様のご学友に迷惑はかけるなよ」


 早速私の肩に手を回して立ち去ろうとする彼方に顔をしかめながらも、さすがにそんな安い挑発には乗らないらしく、深古都さんはしっしと手を振った。


「迷惑かけたりしないよな。高校のときの俺の話するだけだもん、トカゲの元カノ事情とか」

「桜坂様、この馬鹿野郎による風評被害を防ぐために私もご一緒させていただいてよろしいですね」


 が、そっちの安い挑発には簡単に乗った。挙句、私の異論を許さぬ口調と共にすかさず彼方の腕を私から引っぺがし、彼方と私の間に入るときた。彼方が変に私に黒歴史を耳打ちすることもできないようにするためなのだろうか。

 結局、深古都さんと彼方に挟まれる形で駅に向かい、電車に揺られ、“南崇津(たかつ)駅”とかいう聞いたこともないような場所に連れてこられた。山を越えたというと大袈裟だけど、それくらい隔離された場所には感じた。いかんせん一気に背の高い建物がなくなり、なんとなく町の雰囲気も寂れたからだ。駅だって、無人駅とまでは言わないけど、一体化したコンビニに存在感が負けている。


「え……ここどこ……」

「んー俺らの高校があるとこ」

「……なんでこんなところに深古都さんが?」

「え、俺が通うことに違和感ないの?」


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