第四幕、御三家の幕引
 深古都さんのノーブルな雰囲気と、この町のそこはかとない田舎感があまりにもミスマッチだ。でも深古都さんも「夏ぶりだな」なんて呟くから、どうやら定期的に来てはいるらしい。


「まだ新学期始まってないし、誰もいねーだろうなぁ。とりあえず龍玄行こうぜ」

「ねぇ、龍玄って何」

「俺らが高校生のとき溜まり場にしてた……あれ何なんだろうな? 喫茶店? スナック?」

「公式にはカフェバーらしい」


 いずれにせよ満足のいく回答が得られない。


「んじゃ俺らが知ってるのは一応カフェのほうか。でもそういうシャレオツな感じのじゃなくて、古臭い喫茶店って感じ。ケーキが安くて美味いんだ。年明けには紅白の蒸し饅頭もあって、毎年新学期はみんなで食いに行ってた」


 懐かしいなぁ、としみじみ彼方は頷くけど、私には懐かしくもなんともないどころか奇妙で仕方がない店に連れていかれることしか分からない。


「あぁ、懐かしいな。行く日と時間がお前らと被ると喧嘩になって、よくおばさんに怒られた」

「みんな新学期初日の放課後に食べに行くんだから被るに決まってんだけどな」

「どちらが時間をずらすか問題でよく揉めたな……今考えても馬鹿馬鹿しいが、譲るのはプライドが許さなかったからな」


 それこそ馬鹿馬鹿しいのでは……? そう言いたいけども口に出すことなどできず、ぐっと堪えて深古都さんに目で訴えかけるしかできない。


「で、今日はまだ誰もいないんだろうな。鉢合わせすると相手が面倒くさい」

「お前……可愛い後輩たちに向かってなんて冷たいことを……」

「俺の後輩とお前の後輩が鉢合わせすると面倒くさいんだよ! ったく、お前のツッコミ待ちのボケも毎度毎度面倒くさい……」


 そう言いながらツッコミを入れてあげたり、よく分からないお店に付き合ってあげたり、深古都さん優しいな……! なんだか彼方と深古都さんはボケの激しい松隆くんとすごぶる口が悪い桐椰くんを見ているようだ。いや、そんな二人は最早二人ではないけれど。


「あの……そろそろ二人の関係を聞きたいんですけど……」

「あぁ、高校生のときにな」

「言ったら今すぐその柴犬頭を丸刈りにするぞ」


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