第四幕、御三家の幕引
 冷ややかな暴言なのに吹き出しそうになった。柴犬頭、確かに分かる。髪の色が違うせいで思ったことなかったけれど、確かに桐椰くんも彼方も頭がふわふわで柴犬感がある。その共通点は盲点だった。全体的な雰囲気でいえば桐椰くんのほうが犬っぽいけど。


「あ、でも深古都さんが番長やってたってことは芙弓さんから聞きました」


 それはさておき、深古都さんが必死に隠そうとしているのはおそらくこのことなんだろう。言った瞬間、その鋭い目に一瞬で絶望が宿った。どうぞその黒歴史を掘り返してくれるなと言わんばかりだ。


「ほらー、バレてるじゃん。そうそう、俺と深古都、高校生のとき番長やってたんだぜ。今時ウケるよなー、分かってたから進学したんだけど」


 でも深古都さんと違って彼方は楽しげだ。深古都さんが絶望に打ちひしがれている隙に、嬉々として説明してくれた。

 曰く、彼方と深古都さんは、通っていた高校は別々だけど、この市内で覇権争いを繰り広げていたのだと。今時そんなことあるわけないじゃん、と笑い飛ばしたいけれど、中心部から隔離されたこの場所はそんなことあるらしい。中心部から見れば時が止まっているとでも揶揄したくなるような古臭い慣習と習慣が残っているのだとか。

 その象徴のように、二人に連れていかれた“龍玄”というお店は古びていた。建物は蔦に侵食され、古ぼけて薄汚れた看板はちょっとつつけば倒れて割れてしまいそう。きっと夜になったら安っぽいネオンで存在感を出そうとする。そのくせ、しゃれっ気の欠片もない外観からは、確かに喫茶店なのかスナックなのか何なのか判別できない。


「相変わらず絶妙なバランスで立ってんな、この看板」

「並行に置こうとすると反って壊れるんじゃないか」


 そんなお店とこの二人がやはりミスマッチ……! 深古都さんはそんな高そうなコートを着てこんなところに来るべきじゃないんじゃないだろうか。チリンチリン、と鈴を鳴らして中に入る二人に続けば、中は小奇麗だけど、いわゆるオシャレなカフェなんかじゃなくて、古き良き喫茶店のイメージがしっくりきた。カウンター席があるので、確かに夜はスナックかバーかになるのかもしれない。

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