第四幕、御三家の幕引
 それでもって、私そっちのけで昔か近況かよく分からない話を始めた。頭上に?マークをいくつも浮かべていると「さっき覇権争いしてたって言ったじゃん、あれ高校同士の話だから、代々続いてんだよね」とよく分からない説明をされた。


「えーっと……」

「大まかには東西南北に高校があるんですがね、各校に一人ずつ番長がいるんですよ。代替わりごとにトップを決めるべく争いを繰り広げるわけです。私達も一応それぞれ番を張っていたことがあるので、それなりに後輩のことは気にしてるというわけです」


 流れるような説明だけれど、どうにも腑に落ちないことがあるせいで上手く咀嚼(そしゃく)しきれなかった。


「つか今年は俺らとお前らどっちが勝ってんの? 成績」

「今年はうちだな。お前と俺のせいで喧嘩闘争に学力闘争が加わったって嘆いてるらしいぞ」

「別に俺らのせいじゃないじゃん、お前のせいじゃん。クソダサかったよな、模試の成績叩きつけてくるから代わりに俺の突き出したら、そのまま自分の成績表引き裂くんだもんな」

「最終的に第一志望に落ちたのはお前だけどな!」

「それを言うなそれを」


 喧嘩するほど仲が良い、というヤツなのだろうか。二人は昔話をして、たまに「大体あの時もお前は」と罵り「あの時のお前マジでウケたよな」と鼻で笑うくせに、「あー、もう一回馬鹿やりたいなぁ」「もういい年だろ……」なんて懐かしむ。

 蚊帳(かや)の外に置かれてしまいながらも、彼方が同級生と喋るのをじっくり横で見るのは初めてだったので、それほど退屈はしなかった。ただ、鹿島くんの件は今日は諦めるしかなさそうだ。


「あれ、桐椰先輩」


 そんなことを思いながら二人の話に耳を傾けて暫く、少し驚いた声が彼方を呼んだ。反射的に私も振り向いてしまうと――これまた美形のお兄さんが立っていた。優等生風なのに生真面目さがなくて、少し中性的で綺麗な人だった。お兄さんといっても、多分同い年くらいだ。

 いや、そんなことより何より、この人の顔、率直に言って好みだ……! 本能的に目を離せなくなってしまった私の隣で「あれ、帰ってたのか」と彼方が喋り出す。その人は深古都さんに軽く会釈した。


「もちろん、年末年始はこっちですよ」

「他のヤツらは? 会ってんの?」

「会ってるどころか一緒に来ましたよ」


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