第四幕、御三家の幕引
 その人が指差すと同時に、お店の扉が開いて「さみぃー」「店の中も寒い!」「おばちゃんもっと暖房つけようよー」なんて親し気な声と共に大学生と高校生の間みたいな人達が雪崩込んできた。その中の人達も、彼方を見つけると「桐椰先輩!」「っす!」と口々に名前を呼んだり挨拶をしたりだ。


「おー。何、何してたのお前ら」

「カラオケ行くんですよ、今から。その前に紅白饅頭買って行こうってなって」


 先輩相手だからなのかもしれないけれど、喋り方も柔らかくて優しい。松隆くんから毒と歪みを抜いたような人だ、似非じゃなくて本当の王子様みたいだ。半ば呆然と見つめていると目が合って、にっこり笑われた。なんなんだこの人!

「先輩も来ます?」

「んー、いや、それはまた今度にするけど」


 彼方は「ちょっとごめん」と私達に断りをいれると、その王子様みたいな人と一緒に、お店に入って来た集団の中に混ざりにいってしまった。集団は口々に「帰ってんなら教えてくださいよー」「桐椰先輩いるって言ったら絶対アイツ来たのに」なんて彼方を(した)う。

 イメージ通りというか、知っている通り、彼方はみんなの中心だった。


「昔からあれですよ、アイツは」


 王子様から彼方に視線を移した私に、深古都さんは呆れたような口調で呟いた。


「一人になるも集団になるも自由。どこに行っても一人でやっていけるのに、どこに行ってもみんなに混ざれる。一種の才能みたいなものでしょう」


 馬鹿丁寧な口調は余所余所しくて、それが彼方と深古都さんの差なんだと――彼方と違って、他人と距離を縮めるのが上手いわけではないと、言われている気がした。それでいて、誉め言葉とは裏腹の興味なさげな余裕の態度は、だからといって彼方のようになりたいと思っているわけでもなさそうだった。


「……彼方が、こういうところにいるのは、分かるんですけど」


 そのせいで、私の手でも二人の差を浮き彫りにしたくなってしまう。


「深古都さんがここにいるのは何でですか? なんか、正直、芙弓さんの家の執事なら、花高に通っててもおかしくないんじゃないかなって思ったんですけど……」


< 128 / 463 >

この作品をシェア

pagetop