第四幕、御三家の幕引
 そう言って視線を向ける先では、彼方が馬鹿騒ぎをしていた。後輩と同期が混ざっているのか、集団にいても距離感は少しずつ違って見える。


「だから、貴女くらいは貴女を赦してあげてもいいんじゃないですか」

「え……?」


 不意に自分の話を引っ張ってこられ、間抜けな返事をしてしまった。深古都さんは「だから私の話を聞きたがったんでしょう?」とでも言いたげだ。


「貴女が何をしたかなんて知りませんよ。誰かのためにやったのか、自分のためにやったのかも知りませんし、知るつもりもありません。私にある情報といえば、いるだけで病気になりそうな廃ビルに迂闊(うかつ)に監禁される友人がいて、桐椰のクソ野郎と親しくて、桐椰と知り合ったのが当時の私達さえ後輩には警告する危険な場所だということくらいです」


 十分すぎる情報だと言外に言われている……。その界隈に少なくとも片足突っ込んでたことくらい分かる、と。


「何をしてもいいと言うつもりはありませんよ。私は私の身内に危害を加える相手は容赦なく潰しておく性格ですし」

「潰……」

「でも、後悔して、反省して、やめたんでしょう。それなら、他人があれこれ口を出すことではないんですよ。神じゃあるまいし」


 まるでかつて誰かに吐き捨てたことでもあるように、最後の一言はぶっきらぼうだった。


「今の貴女がどう感じるかは別として、当時の貴女を赦すくらいしてあげてはどうですか。赦すというのは難しいことですけどね、したことをなかったことにするわけではないし、かといっていつまでも罪悪感に(さいな)まれることをよしとするわけでもないし」


 深古都さんが言う、赦すべき私は、どの時点の私なのだろう。


「説教臭いことを言いましたけど、こんな私の言葉だってどうでもいいんですよ。私が私の過去を顧みて、まぁ赦してやるか、代わりに今頑張るか、くらいに思ってるという話ですしね。というわけで、私は基本他人のために物を言えないタイプなので、底抜けで無責任な優しさは桐椰のクソ野郎にでも頼んでください」


 きっと彼方が戻ってくるのを視界の隅に捉えていたのだろう、深古都さんが締めくくる頃、紅白饅頭を買いに来た集団が「お邪魔しましたー」と出て行って、彼方がこちらへ戻ってくる。


「ごめんごめん。何の話してた?」

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