第四幕、御三家の幕引
「お前の女癖の悪さは高校生のころから筋金入りだって話」

「あ、トカゲの元カノ話聞いちゃった? でもさぁ、あれは俺じゃなくてトカゲも悪いんだよ。だってコイツ、彼女がいようがいまいが、執事やってるお嬢様が一番なんだから」


 そして、席に着くなり思い切り頭を叩かれた。どう考えても深古都さんがバラされたくない情報ナンバーワンだ、叩かれても仕方ない。


「こんなところに付き合わせた挙句、自分は後輩と同期と楽しくお喋りして桜坂様を無視とは何事だ」

「え、殴った理由それじゃないよな……? 正論で誤魔化そうとしてるよな……?」

「紅白饅頭を食べたらもう用はない、俺は帰る」

「え! 折角だから散歩して帰ろうぜ!」

「なにが楽しくてお前と散歩しないといけないんだ、馬鹿馬鹿しい」


 冗談ではなく本気で深古都さんは立ち上がった。彼方がどれだけ「えー」「トカゲちゃーん」と駄々をこねても、深古都さんの帰り支度を益々加速させるだけだった。


「じゃあな」

「つれないなぁ。また成人式でな」

「わざわざ来ねーよこんなところまで」

「毎年成人式は当時の番長で集まってんじゃん」

「今年からその伝統は消す」


 深古都さんはメニューも伝票も見ずにお札を置いた。おばさんが「また来なさいよ」と声をかけるのと、私にだけ頭を下げて、名残惜しさなど欠片も感じさせず(というか多分事実欠片もなかったのだろう)お店を出て行った。

 残ったのは私と彼方の二人だけだ。彼方は、まだ食べていなかった紅白饅頭を食べながら「いやー、ごめんな、盛り上がっちゃってて」とあまり悪びれてなさそうに謝る。


「後輩と同級生?」

「あぁ、そうそう。よく分かったな。最初に来たのは後輩だけど」

「先輩って言ってたから分かったよ。……美形だったよねぇ」


 今思い出してもしみじみ思う。深古都さんといい(一応)彼方といい、この町は美形遺伝子を配合しているのかもしれない。あ、でも深古都さんも彼方もこの町の生まれではないのか。


「あれ、亜季ちゃんってああいう顔が好みなの?」

「うん、綺麗な顔好きかも」

「じゃあ総くんの顔だけは好きそうだな」


 図星だったし、松隆くんにもその意地悪をされたことがあるので何も言えなかった。


「総くんはなぁ、なんだろうなぁ、褒め方間違えたのかなぁ」

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