第四幕、御三家の幕引
「いや……松隆くんの話はいいよ……」
「あぁ、今日は鹿島くんの話しに来たんだもんな」
今日の最大にして唯一の目的だったとはいえ、散々後回しにされていたので、あっさりと本題に入られて逆に面食らった。彼方は緑茶を飲んで一息ついて、「栄一から聞いたんだけど」と前置きをする。
「公になってない……って言ったら変だけど、まぁ、あんま噂として出回っていいもんじゃないから、アイツらには言うなよ」
「うん……?」
「とりあえずあの写真の女の子は、多分鹿島くんの許嫁じゃねって言ってた。最初は見覚えあるとしか言ってなかったけど、よく考えたらそうだって」
なるほど、許嫁か……。となると、写真にして持っているということは、許嫁でも随分好きらしい。いや、許嫁は好きじゃないのが普通とまでは言えないけど……。
「噂になってないってことは秘密なの? っていうか、それなら何で松隆くんのお兄さんが知ってるのって感じだけど」
「……ちょっと、なぁ。複雑な事情があって」
きっと松隆くんのお兄さんも言い渋ったのだろう。彼方は珍しく言い淀んだ。
「……一応、その子が許嫁だったんだよ」
「だったって?」
「亡くなっちゃったらしいんだ」
「え……」
見知らぬ他人のこととはいえ、一瞬戸惑った。亡くなった……。じゃあやっぱり、鹿島くんがあの写真を持っていたのは、亡くなった許嫁を忘れられないから……。許嫁だから好きなんてものじゃないだろうけど、少なくともあの鹿島くんが遺影を後生大事にしている理由はそうとしか考えられない。
ただ、亡くなっただけと言うのは乱暴だけど、それだけでは複雑な事情にまではならない。
考え込む私の前で、彼方は渋い顔のまま続けた。
「ま、本当、下手に噂になると悪いからっていうんで、栄一もあんまり詳しくは言わなかったんだけどさ。昔の付き合いでたまたま知ってただけらしいし」
「なる、ほど……」
「で、その子、八橋海咲ちゃんっていうんだけど――」
ヤツハシ、ミサキ。
何気なく口にされた名前の音を、頭の中でゆっくりと繰り返した。次いで、頭の中には修学旅行で同室になったクラスメイトが浮かぶ。そのまま、体育祭のことが脳裏に過った。
ゆっくりと、目を見開く。
「嘘」
「あぁ、今日は鹿島くんの話しに来たんだもんな」
今日の最大にして唯一の目的だったとはいえ、散々後回しにされていたので、あっさりと本題に入られて逆に面食らった。彼方は緑茶を飲んで一息ついて、「栄一から聞いたんだけど」と前置きをする。
「公になってない……って言ったら変だけど、まぁ、あんま噂として出回っていいもんじゃないから、アイツらには言うなよ」
「うん……?」
「とりあえずあの写真の女の子は、多分鹿島くんの許嫁じゃねって言ってた。最初は見覚えあるとしか言ってなかったけど、よく考えたらそうだって」
なるほど、許嫁か……。となると、写真にして持っているということは、許嫁でも随分好きらしい。いや、許嫁は好きじゃないのが普通とまでは言えないけど……。
「噂になってないってことは秘密なの? っていうか、それなら何で松隆くんのお兄さんが知ってるのって感じだけど」
「……ちょっと、なぁ。複雑な事情があって」
きっと松隆くんのお兄さんも言い渋ったのだろう。彼方は珍しく言い淀んだ。
「……一応、その子が許嫁だったんだよ」
「だったって?」
「亡くなっちゃったらしいんだ」
「え……」
見知らぬ他人のこととはいえ、一瞬戸惑った。亡くなった……。じゃあやっぱり、鹿島くんがあの写真を持っていたのは、亡くなった許嫁を忘れられないから……。許嫁だから好きなんてものじゃないだろうけど、少なくともあの鹿島くんが遺影を後生大事にしている理由はそうとしか考えられない。
ただ、亡くなっただけと言うのは乱暴だけど、それだけでは複雑な事情にまではならない。
考え込む私の前で、彼方は渋い顔のまま続けた。
「ま、本当、下手に噂になると悪いからっていうんで、栄一もあんまり詳しくは言わなかったんだけどさ。昔の付き合いでたまたま知ってただけらしいし」
「なる、ほど……」
「で、その子、八橋海咲ちゃんっていうんだけど――」
ヤツハシ、ミサキ。
何気なく口にされた名前の音を、頭の中でゆっくりと繰り返した。次いで、頭の中には修学旅行で同室になったクラスメイトが浮かぶ。そのまま、体育祭のことが脳裏に過った。
ゆっくりと、目を見開く。
「嘘」