第四幕、御三家の幕引

(三)寂黙の断罪者


「随分控えめに入ってきたね」


 そろりそろりと生徒会室の扉を開けたせいか、鹿島くんには鼻で笑われた。ちょっとだけドキリと心臓は跳ねたし、なんなら桐椰くんが真ん中のテーブルに座っていたせいで、目があった瞬間にそのまま心臓が口から飛び出そうになった。

 お陰で、開けたときと同じくらいそろりそろりと扉を閉める羽目になる。桐椰くんは早速私から視線を背け、テーブルの上に広げた書類の処理に戻った。他に生徒会役員はいない。


「……いや、お仕事中の気配がしたので。明貴人くんの邪魔しちゃ悪いかなって」

「そんなのいつもお構いなしにふざけた音量と台詞で入ってくるだろ? 桐椰がいるからっていい子ぶるなよ」

「ぶってませんー。明貴人くんだって桐椰くんの前だからって生徒会長ぶらないでくださいー」

「生憎、生徒会長なんでね。ぶるも何もない」


 馬鹿なことを言った。いつにも増して私を見下す目に舌打ちしたいのをぐっと堪え、最初以来私を見向きもしない桐椰くんを私も素通りする。


「あけおめ、明貴人くん。風邪治った?」

「治った。他人に伝染すと治るのは本当だね」

「責任取って治療費くらいください」

「風邪に必要な治療費なんてない」

「季節が季節なんでインフルエンザの検査したんですぅ。発熱で歩くのもしんどかったんですよ!」

「もしかしてタクシーの捕まえ方が分からなかったのか? 脳が溶けるほどの高熱を出してたと遠回しに伝えたいと?」

「そういう明貴人くんは遠回しに徒歩を選択した私を馬鹿にしたいんですよね」


 ていうか脳が溶けるレベルの高熱ならさすがにタクシー使うし、でもそうなるとタクシー使う発想できないだろうし――と言いかけてやめた。何が何だか分からなかったし、これで鹿島くんに反論できる材料がなかった。

 いつも通り鹿島くんの隣に椅子を持ってきて、膝を抱えてそこに座り込む。鹿島くんとの掛け合いがひと段落するとやることがない。いつもはそれでいいのだけれど、ど真ん中のテーブルを桐椰くんが占領しているというのは厄介だ。背を向けない限り視界に入る。
< 134 / 463 >

この作品をシェア

pagetop