第四幕、御三家の幕引


 桐椰くんと顔を合わせるのが気まずいんだよー……と心の中で呟きながら膝に顔を埋めた。というか、鹿島くんと顔を合わせるのだって複雑ではあるのだ。どうやら、鹿島くんの持っていた写真の女の子は、八橋さんのお姉さんらしい。そこまではいい。でもその人が亡くなってて、八橋さんが体育祭で「気になる異性」に鹿島くんを選んでるってどういうこと? 八橋さんサイドから見たら、亡きお姉さんの許嫁が好きってこと? しかもそれを公言したって……何そのドロドロ関係……。


「その座り方はやめろ、パンツが見える」

「わー心配してくれてありがとう」

「権利を奪われるのは性に合わなくてね」

「なにそれ、何の権利。もしかして見たいパンツを選ぶ権利? 変態で失礼とか外道どころの騒ぎじゃないよ」

「理解が早いのか言われ慣れてるのか、明らかに後者だろうな」

「失礼の上塗りやめてくれません?」


 にこにこ眼鏡の奥で笑う鹿島くんの目が笑ってない。私も笑顔で返すけど目が死んでるのは自分でも分かる。そして視界の隅で桐椰くんが書類をまとめたのも分かった。私の代わりに鹿島くんが視線を向ける。


「帰るのか?」

「あぁ。続きは明日」

「そうか。じゃあな」


 終わったのではなく、続きを明日に回す……。手早く机の上を片付けた桐椰くんは、「じゃーな」と無愛想に出て行った。


「浮気」

「え」


 桐椰くんが出て行った後の扉を見つめていると、言葉にそぐわぬ楽しそうな声が耳を刺す。


「したの? 桐椰と」

「してないですけど」

「俺はキスから浮気にカウントするけど、それでも?」

「してないです。っていうか、わりと緩い基準じゃん、それ。手繋いでも浮気って評価する人さえいくらでもいると思うけどな」


 本当はキスしたのできっと誰がどう見たって浮気なのだけれど。口にも顔にも出さず、代わりに肩を竦めておいた。でも鹿島くんも肩を竦めて返す。


「さぁ、キスくらいは悪ふざけとか挨拶でする人もいるし。それを加味すれば、十分厳しい基準だと思うけどね」


 そう……か……? うーん、と考え込んでしまったけれど、確かにキスが挨拶の文化持ちの人が友達にいるからって、その人に会うたびに浮気呼ばわりされては堪らないし、する側にしたって文化を否定されたくないだろう。


「ま、いずれにせよ君はアウトだよ」

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