第四幕、御三家の幕引
「見てたわけでもないのに何を」

「君がどれだけ上手に誤魔化そうと、桐椰が下手なら無意味なんだよ」

「……桐椰くんに何言ったの」

「別に? 松隆も馬鹿だな、よりによって御三家で一番の馬鹿を生徒会に送り込むんだから。御三家を読んでくれと言ってるようなもんだ」

「桐椰くんは優しいだけで馬鹿じゃないもん」


 あっかんべーをしてみせたけれど、鹿島くんは馬鹿にしたように鼻を鳴らすだけで何も言わなかった。


「さて、年も変わって、新年の挨拶回りも終わって、身の周りも整えて……」


 スマホでカレンダーを見ていたらしい鹿島くんが不意に目を細めた。なんだなんだと横から覗き込もうとするけれど、やはり私には見せてくれない。


「何があるの?」

「……さぁ?」


 その間は、何なのか。ただ隠すならもっと上手くやるはずだから、一拍置いたのはわざとに決まってる。分からないのかと、暗に伝えてきた……?

「とりあえず、浮気のペナルティでも考えようか」

「ていうか桐椰くんが勝手にしたことなんだから私に課されるべきじゃなくないですか」

「あぁ何、本当にキスしたの? 上書きでもしとこうか?」

「なにそのルーズルーズの関係! 嫌です!」


 自白をとられた悔しさよりも気持ち悪さのほうが強かった。断固拒否すると――急に胸倉を掴まれる。驚きと怖さで目を見開いたときには、鹿島くんの顔が目の前にあった。


「言っとくけど日頃の優しい掛け合いは冗談だからな。君が俺の隣にいる限り俺が御三家に手を出すことはない、その契約を破る気はないが、君のほうが形しか守れないなら容赦なく手は出す。そのことは肝に銘じときなよ」

「……なにそれ」


 私達が鼻先が触れ合いそうなほどの距離で囁くのは、いつだって睦言じゃなくて脅迫だ。


「いまキスしたほうが安く済むってこと?」

「まさか。そう安く済ませてやるわけないだろ?」


 歪んだ唇とは裏腹に真綿のように柔らかい声で、更にそれにそぐわぬ宣戦布告をする。


「心配しなくても、浮気のペナルティ程度しかしないとも」

「……まだ追い詰めようっていうの? 御三家を」

「さぁね」


 ほら、ただ隠すなら、鹿島くんは松隆くんと同じくらい、それが上手なんだ――。思わず眉間にしわが寄るのを感じながら、解放された胸元を整えた。


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