第四幕、御三家の幕引
「ま、そういうわけだから、契約はきちんと守ったほうが君のためだよって話。結果的にね」

「……気を付けます」


 そんなことより、鹿島くんが気にしてた日付は何だ……? 八橋さんのお姉さん関係だとしたら弱味一つ……。考えても分かるはずがないし、鹿島くんも教える気配はないどころか真面目にパソコンに向かい始めたし、どうやら知る由はないようだ。

 そんな新学期を迎えてだいぶ経つ頃、突然事件が起きた。いや、事件というほどではないのだけれど、桐椰くんが欠席した。ずっと空白の座席をそわそわと気にしていたら、ホームルームで先生の口から「桐椰は欠席だから」と。

 何だろう、風邪かな、連絡したほうがいいかな、なんて呑気に考えていると、今度は休み時間に「今日松隆くんいなくてー」という会話も聞こえた。まさかと思って一組に行って適当な人を捕まえると、月影くんもお休みだった。御三家が全員揃って欠席、分かるのは風邪ではないということだ。

 何かの作戦でずる休み……? それにしては三人揃って休むなんて、何か企んでますと言ってるようなものだけど……。そんなことを考えながら生徒会室でぼんやりしていると、鹿島くんが珍しく視線を寄越した。


「……何?」

「いや、別に。君は休んでないんだなと思っただけだよ」

「私が?」


 四六時中御三家と一緒にいるような学校生活を送っていたのは夏前までだ。それでもって今は、下手に鹿島くんに浮気とみなされる行動をとろうものなら契約違反。御三家が何をしてるか知らないけど、一緒に休んだりするわけがない。


「……休むわけないとでも言いたげだね」

「その通りですけども」


 パタン、と重たそうなファイルを閉じて、鹿島くんは、ふん、と鼻を鳴らす。


「……何?」

「今日、御三家がなぜ休んでいるのか知らないのか?」

「…………」


 何かは分からないけれど、そんな言い方をされると知らないことが恥ずべきことのように思えて何も返せなかった。

 鹿島くんは立ち上がり、窓辺に寄る。カラカラと音を立てて開けられた窓から舞い込んでくる風はひんやりと冷たく、乾いていて、暖房で温室と化した部屋の空気を一瞬で変えた。


「一月二十三日」


 今日の日付だ。訝しむ私を、鹿島くんは意味深に振り返った。


「雨柳の命日だよ」


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