第四幕、御三家の幕引
 じゃあどうして、今日という日を覚えていたのだろう。きっと、推測するに、年明けに会ってスマホの手帳を確認していたときの鹿島くんは、透冶くんの命日に気付いていた。手帳を見て気付いたということは、手帳に予定として書きこんでいたということだ。わざわざ気にかける理由は、御三家のためか――透冶くんのためかの二つ。……鹿島くんが、透冶くんのために? 有り得ない、だって透冶くんを殺したのは鹿島くんで、御三家を弄ぶためなら誰の心を蹂躙したって構わなくて――……。


「……鹿島くんは、透冶くんの死を嘆かなかったの?」


 あれ? ぎゅ、とスカートの裾を握りしめた。変な質問をした。嘆かなかったに決まっているのに、そんな答えの分かりきった質問に意味なんてないのに。

 鹿島くんの本当は、どこにあるのだろう、なんて。


「なぜ、俺が嘆くんだ?」


 なぜ、私は、その笑顔に疑念を抱いてしまうのだろう。


「確かに、彼は真面目な人だったからね。あのまま会計を任せることができればそれに越したことはなかった。尤も、経緯がどうあれ、嘘の会計帳簿を作成するようなヤツに続投してもらっちゃ困る。……その程度かな、雨柳に対する感情は」


 尤もらしい、想定通りの、私が想像する通りの返答。だからこそ、私の知る鹿島くんがそこにいることが、間違いない事実のはずだ。

 間違いなく――。

 脳裏には、八橋さんのお姉さんの写真が過る。

 鹿島くんが彼女に向ける感情は、きっと愛情に近いはずだけれど、鹿島くんのように残忍な人がそんなひたむきな愛情を持ち続けることも、妙ではないといえる、だろうか。

 誰を辿れば、本当の鹿島くんに辿りつく――? 浮かんだのは、一人のクラスメイト。

 修学旅行の一日目、話しかけられた途端に(電話がかかってきたとはいえ)私があからさまに避けたせいで、気を遣ってか、二日目以降は全く話しかけられることはなかった。というか私が帰ったときには既に寝ていた。修学旅行でそんな早く寝ることある……? と、今度は私があからさまに避けられている気しかしなかった。

 そんな八橋さんに鹿島くんのことを教えてくださいなんて直球が通用するはずない……。信頼関係もへったくれもないしなぁ、と思い悩む私の横で、鹿島くんがふと思い出したように気持ち顔を上げた。


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