第四幕、御三家の幕引
「来月の土曜日にしようって話なんだけど、桜坂の予定は?」

「あ、うん、どこも空いてるから大丈夫……」

「そう。じゃあそのままお願い。……どうしたの?」


 スマホから顔を上げた松隆くんは苦笑いだ。


「別に、無理しなくてもいいよ?」

「あ、ううん、松隆くんのお父さんに会うのは全然……っていうか私のほうが話したかったし……」

「それならいいけど。気が進まないならいくらでも言ってよ」


 顔に困惑が出てしまった理由は透冶くんだけど、松隆くんのお父さんにどんな顔をして会えば分からないのも事実だ。大学時代のお父さんとの関係は、友達なんて単純な言葉だけで説明できるものだったのか。わざわざ一人で、仕事の合間を縫ってまでお母さんのお墓参りをしていたのはなぜなのか。なぜ、お父さんは、私を花高に入れさせてくれたのが松隆くんのお父さんだと言わなかったのか。それは全て、“松隆くんのお父さんと私のお父さんが、お母さんを巡って厄介事があったから”なんて昼ドラみたいな理由で片付く。松隆くんの父親に会うことで、この仮説が真実だと立証されてしまったら――……。松隆くんは関係がないとしても、私はその理性通りに感情をコントロールできるのだろうか。


「で、最近鹿島とどう?」

「げっ、どうって何ですか、リーダー」


 松隆くんは窓辺に背中を預けて立ち話をする体勢に入った。呑気に来月の心配なんてしてる場合じゃなかった。


「足繁く生徒会室に通ってるみたいだし、修学旅行から帰って以来お揃いのグラス使ってるみたいだし。思ったより仲良くやってる噂だけ聞くから、どうなのかなと思って」


 噂の真偽を本人に確かめに来ただと……。その笑顔の裏には「どうせ好きじゃないんだから姑息な小細工はやめなよ、この俺の機嫌を損ねるだけだよ」と書いてある気がした。被害妄想か自意識過剰だろうか。


「まぁ……どっちも本当のことですし、仲良くやってますよ……」

「ふ」

「なんで笑うの!? どうせこの俺相手に白々しいのウケるとか思ってるんでしょ!」

「別に思ってないよ。桜坂の中の俺、随分と俺様なんだね」


 しまった、口が滑った。言うに事欠いて“この俺”はない。


「で? 鹿島から何か有用な情報でも得たわけ?」

「なんでそんな直球で私と鹿島くんの関係を疑うの。ただのカップルだよ」

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