第四幕、御三家の幕引
「ただのカップルねぇ。それならちゃんと鹿島に許嫁は切らせたの?」


 許嫁を切らせたか、だと……? 八橋さんのお姉さんは亡くなってるんだからそんな話にはならないのでは……。いや、新しく許嫁が決められた可能性もあるし、松隆くんがただはったりをかましてる可能性もある。


「いやぁ、ほら、まだ高校生ですし、そんな、たかが高校生の恋愛で、ね?」

「そうだねぇ。まだたかが高校生の恋愛だし、身辺調査とかされないといいね」

「えっ! そんなことされるの!?」


 きっと冗談だ。そんなことを言って私と鹿島くんを別れさせようという魂胆に違いない。にやにやと怪しい笑みを深くする松隆くんを見ているとそうとしか考えられなかった。


「……いじめるのはやめてくれませんか」

「別に、そんなつもりはないけど。桜坂がそう思ったってことは後ろめたいことがあるんだろうね」

「……そろそろ彼氏のとこに行きますね」


 油断も隙もないリーダーめ……。心の中で毒づいて手を振った後、松隆くんをリーダーと呼ぶ自分はしぶとく御三家側についたままなのだと自覚した。松隆くんにも揺さぶられて当然だ。

 というか、松隆くんも、やっぱり普通だったな……。会ってないのは月影くんだけだけど、きっとなんでもないいつもの鉄仮面なんだろう。私が一番いつも通りでいられないなんて、偽善者だという誹りを免れないといっても過言ではない。

 こんな日に鹿島くんに会うのは嫌だな……。自分で選んだ契約を恨みながら生徒会室までやって来て――扉を開けようと手をかけて、止める。


「別に、んなことねーよ」

「だったら進捗(しんちょく)を見せてみろ」

「……関係ないって言ってんだよ」

「誰も雨柳のことで、なんて言ってないだろ?」


 そして、手を止めなければよかったと思った。透冶くんの一件を利用して御三家の心を踏みにじった、あの時の行為をまた繰り返している。大方、仕事の捗らない桐椰くんを詰ったか嗤ったかしたんだろう。空気を読まずに扉を開いて、二人の会話を中断させればよかった。


「……つか、別にいいだろ。お前が言った締切は守ってる」

「俺だって急かしてなんかない。調子はどうだ、なんて挨拶代わりみたいなもんだよ」


 今からでも、遅くないだろうか? これ以上鹿島くんが致命的な言葉で桐椰くんを刺す前に……。


< 143 / 463 >

この作品をシェア

pagetop