第四幕、御三家の幕引
「勝手に勘違いしたのはお前だ。それだけ雨柳のことで気が散ってるって自白したようなもんじゃないか」


 でも、割って入ってどうする? 割って入ったら、二人の会話が止まって、それで?

「……そういうのじゃねーよ」

「いい加減割り切ったらどうなんだ。今更雨柳のことを考えたって無駄だ」


 ――そんなの言い訳で、本当は今すぐ二人の会話を止めない理由なんてなかった。教室の中に入れなかったのは――入らなかったのは、最近ずっと抱いている疑問を解決できるかもしれないと思ったからだ。


「……無駄とか言うんじゃねーよ。お前に関係ないのに、お前に分かるわけねーだろ」

「知ったことじゃないけど、それはそれとして、目の前でこれ見よがしに凹まれると鬱陶しい。慰めろと言われてる気分になるからな」

「だったらほっとけよ。誰もお前に慰めてほしいなんて思ってない」

「そう言われてる気がして鬱陶しいって言ってるんだ。誰もお前なんかに気を遣いやしない」

「……だからほっとけって」

「視界に入るのが鬱陶しいんだよ。気遣い屋なもんでね」

「気遣い屋はそんなこと口に出さねーよ」

「とにかく、お前が今悩むべきことじゃないんだ、それは」


 バサリと、書類を机に投げ出すような音がした。呆れた表情の鹿島くんが目に浮かぶ。


「雨柳の遺書を読んだだろ。何が書いてあったかは知らないが、お前があれ以上に雨柳を知ることはできない。そうだろ」

「……そんなの正論だろ」

「だったらなんだ。死人に()りつかれた妄想よりよっぽど生産的だ」

「……うるせーな、それも正論じゃねーか」

「俺が言いたいのは、なんでお前がそこまで雨柳のことで思い悩んでるんだってことだ」


 それは、透冶君に最後に会ったのが桐椰くんだからだ。それは鹿島くんも知っている。


「お前が最後に雨柳に会った、お前だけが雨柳が会計の不正に加担したことを知っていた。それで? それがお前と残る二人をどう区別するっていうんだ?」

「……ピンポイントで突いてくんじゃねーか。そこまで分かっててあれこれ言うお前の神経、どうかしてんだろ」

「分かってるから、疑問なんだよ。俺が知ってる限りでは、お前が責任を感じる要素がない」

「……充分だろ」

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