第四幕、御三家の幕引
「そんなわけあるか。死人の最期のその直前に立ち会ったから責任を感じろなんて、道理も何もない話だ」

「……ただ単に最後に会ったのが俺だったってだけじゃない」

「その時の話を間違えなければ、雨柳は死ななかったって?」


 せせら笑い混じりの、冷ややかな声だった。


「どうせ死んでいたよ。君に何を言われようが、雨柳は、あの日死んでいた」


 ガタンッ、と机と椅子の揺れる音がした。ほんの数秒後、また似たような音がする。


「何を怒ってる。寧ろ君にとっては都合がいいんじゃないのか、君のせいで死んだわけじゃないってことを裏付けてくれるんだから」

「そんなことはどうでもいい。言い方が気にくわねぇんだよ」

「だったら何て言ってほしいんだ? 慰めは要らないんだろ?」


 桐椰くんが鹿島くんの胸倉を掴みに行ったのか……。割って入るタイミングを完全に逸してしまった。


「自殺するヤツの覚悟なんて相当なもんだ。お前みたいにお人好しが服着て歩いてるようなヤツが一言二言助言したところで変わるものなんてない。どうせあの日、雨柳は死んでたんだ」

「だからっ――」

「雨柳を殺したのは雨柳自身なんだよ。誰がなんと言おうと」


 それでも、鹿島くんが殺したようなものなんでしょ? そう詰りたい気持ちが、声になって喉までせり上がってくる。


「君は――君達は、ずっと自分達を責めるんだろ。誰よりも近い他人だったのに、どうして気付いてやれなかったのかって。ともすれば自分達がいたからこそその罪悪感も劣等感も増したんじゃないかって、そんな(おご)った責任感で自分達を責めてるんだろ。そう調子に乗るなよ」


 それなのに、鹿島くんを糾弾したい気持ちがそれで収まってしまったのは、口ぶりにそぐわない台詞のせいだ。


「お前達が何を言っても、何も変わらなかった。お前達は雨柳の何が俺に分かるって言うんだなんてほざくが、生徒会にいる雨柳を見ていたのは俺だ。アイツの責任感は他人に何か言われて揺らぐような甘いもんじゃなかった。だから、掛け違えたボタンを二度と外せなかったんだ」


 なぜ、鹿島くんが、桐椰くんを擁護するような台詞を言うのか。


「しいて自分達を責めるなら、雨柳に耐性がなかったことじゃないか」

「耐性……?」

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