第四幕、御三家の幕引
「雨柳の気の弱さはお前らが一番分かってただろ? 朱に交わればとまでは言わないが、明確なNOを言えるタイプじゃなかった。悪い連中に引っ張られたら逆らえなかったってのは、何もあの生徒会に限ったことじゃなかっただろうよ。お前達が周りにいたから、誰も雨柳を引っ張れなかっただけだ」

「…………」

「これを聞いて、じゃあずっと傍にいてやればよかったとでも抜かすのか? そんなわけないよな、お前らはただの友達だ。結局、全て雨柳自身の中で完結することだ」


 どうして、よりによって鹿島くんが。


「引き摺られたのも、引き摺られた自分を文字通り死ぬほど責めたのも、どちらも雨柳自身の問題だ。お前達に関係のあることじゃない。感情にやり場がないなら誰かを恨むか? 雨柳を引き摺った牟田先輩達か、知ろうともせずに放置した他生徒会役員か、危機管理能力のない教諭か。コイツらを恨んだってどうしようもないって思うなら、お前が自分を責めるのだってどうしようもない」


 扉から離した手を強く握りしめ、同じくらい強く目を瞑る。鹿島くんの意図が分からない。次々と浮かんでは消えていく形にならない疑問で頭がくらくらする。

 私の想定する鹿島くんなら、ここぞとばかりに桐椰くんに止めを刺すのに。


「どうしようもないんだよ、死んだ人のことなんて。してやれたはずのことは、現にできなかったことなんだから。もう一度会いたいとか、もう一度話したいとか、そんなことを願うばかりで、してやれることはない」


 それは、鹿島くんが、八橋さんのお姉さんに思ってることなんじゃないの。

 カタン、と幾分静かな音がして、二人の会話が一拍途切れる。


「職員室に届けてくる。その間に頭を冷やして、集中できるようになっとけよ」


 はっと我に返り、慌てて踊り場まで逃げた。鹿島くんが職員室へ向かうルートを考え、階段を選択する。そこで息を潜めていれば、暫くして人の歩く音が遠ざかって行った。生徒会室周辺に人の気配はなかったから、鹿島くんで間違いないだろう。

 そっと廊下を覗き、誰もいないのを確認して、今度は生徒会室の中に入った。私がかけられる言葉なんてひとつも思いつかなかったけれど、鹿島くんが戻ってくる前に桐椰くんにとってのワンクッションにはなりたかったから。

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