第四幕、御三家の幕引
不審げな月影くんの声が背後から投げられた。振り向けば、隣のふーちゃんも首を傾げている。
「えー、どうして北海道なのー? 親戚がいるとか?」
「まぁ……うん、そんな感じ……」
縁もゆかりも真っ当な動機も何もありません、とは言えなかった。理由を濁したのは二度目のせいか、視界の隅で桐椰くんが振り向くのも見える。ただ、桐椰くんはやはり何も言わない。
「じゃあ亜季が北海道行くことになったら遊びにいくねー」
「うん……」
代わりに、じっと、不審な視線を向けられ続ける。いたたまれないけれど、だからといってここでするりと口にするようなことではなかった。お陰で奇妙な沈黙が落ちてしまう──。
と、次の瞬間、不意に冷たい視線を向けられてゾゾゾッと背筋が震えた。犯人は余所行き笑顔を顔面に張り付けたリーダーだ。
「北海道といえば、桜坂の彼氏が今は行ってるけど、どうなの?」
どうって何……!? 今まで御三家が私と鹿島くんとの関係にノータッチだったせいで何のリアクションが正解なのか分からない。というか、つくづくなんでこんなメンバーで水族館に来てしまったのか謎だ。
「いや……えーっと……」
「連絡とか来てないの?」
「あっ、ちょっと確認しますね!」
松隆くんに促されて鹿島くんからの連絡を確認する私……。不審過ぎて取り繕うことさえできない。なおLIMEを開いても特に鹿島くんからの連絡はなかった。日頃だって何かを指示するくらいしか連絡は寄越さない彼氏なのだ。
「何も来ていません、リーダー!」
「そう。じゃあ何か連絡があったら教えて」
「は──……え?」
「え?」
リーダーの命令ということで反射的に下僕として頷きそうになって気が付いた。今の私は御三家の下僕ではない。松隆くんのことをリーダーと呼ぶのもその命令に従うのも違うはず……。
そうおそるおそる目で訴えかけるも、松隆くんの笑顔がそれを許してくれるはずがなかった。
「教えるよね?」
何の理由もついていない、ただ一言の念押し。散々松隆くんのオフモードも見てきたはずなのに──いやきっと逆だ、オフモードも見てきたからこそ──絶対王政さえ可愛く思える威圧感に逆らうことはできなかった。
「……教えます」
「えー、どうして北海道なのー? 親戚がいるとか?」
「まぁ……うん、そんな感じ……」
縁もゆかりも真っ当な動機も何もありません、とは言えなかった。理由を濁したのは二度目のせいか、視界の隅で桐椰くんが振り向くのも見える。ただ、桐椰くんはやはり何も言わない。
「じゃあ亜季が北海道行くことになったら遊びにいくねー」
「うん……」
代わりに、じっと、不審な視線を向けられ続ける。いたたまれないけれど、だからといってここでするりと口にするようなことではなかった。お陰で奇妙な沈黙が落ちてしまう──。
と、次の瞬間、不意に冷たい視線を向けられてゾゾゾッと背筋が震えた。犯人は余所行き笑顔を顔面に張り付けたリーダーだ。
「北海道といえば、桜坂の彼氏が今は行ってるけど、どうなの?」
どうって何……!? 今まで御三家が私と鹿島くんとの関係にノータッチだったせいで何のリアクションが正解なのか分からない。というか、つくづくなんでこんなメンバーで水族館に来てしまったのか謎だ。
「いや……えーっと……」
「連絡とか来てないの?」
「あっ、ちょっと確認しますね!」
松隆くんに促されて鹿島くんからの連絡を確認する私……。不審過ぎて取り繕うことさえできない。なおLIMEを開いても特に鹿島くんからの連絡はなかった。日頃だって何かを指示するくらいしか連絡は寄越さない彼氏なのだ。
「何も来ていません、リーダー!」
「そう。じゃあ何か連絡があったら教えて」
「は──……え?」
「え?」
リーダーの命令ということで反射的に下僕として頷きそうになって気が付いた。今の私は御三家の下僕ではない。松隆くんのことをリーダーと呼ぶのもその命令に従うのも違うはず……。
そうおそるおそる目で訴えかけるも、松隆くんの笑顔がそれを許してくれるはずがなかった。
「教えるよね?」
何の理由もついていない、ただ一言の念押し。散々松隆くんのオフモードも見てきたはずなのに──いやきっと逆だ、オフモードも見てきたからこそ──絶対王政さえ可愛く思える威圧感に逆らうことはできなかった。
「……教えます」