第四幕、御三家の幕引
 優しさなんて偽善程度にしか持ち合わせてない私にさえ、桐椰くんの嗚咽を聞くのは辛かった。優しすぎる桐椰くんがどれだけ深く哀しんでいるかが、体の熱のように伝わってくるから。


「……俺が、殺したんだ」


 責苦が吐き出されると共に、一層涙が溢れたのが分かった。


「俺が……アイツに、何も言えなかったから……」

「違うよ。そんなんじゃ死ねない。そんなことじゃ死ぬ決意なんてできないよ」

「……最後に、俺が会計の話したせいで、余計に責めたんじゃないかって」

「そんなことないよ。桐椰くんがそんな人じゃないのは透冶くんのほうが知ってるよ」


 救う一言は言えてない、だって透冶くんは死んだから。

 殺す一言は言ったかもしれない、だって透冶くんは死んだから。

 証明できないのに説明できてしまう呪いが、きっとずっと心の中でとぐろを巻いている。

 その呪いを解くことなんて、どうせ私にはできない。


「でも、そう考えちゃうのは分かるよ。だって桐椰くん優しいから」

「……本当に優しかったら、透冶に……」

「優しいから言えないことだってあるよ。……大丈夫だよ桐椰くん」


 何の保障も根拠もないけど、大丈夫だと言いたい理由だけはある。


「透冶くんがいなくて、哀しくなったら泣いていいよ。あの二人には見せられないもんね。……誰も桐椰くんのこと責めてなんかないよ」


 それこそ、もしこの会話が最後の会話だとしても、私は桐椰くんを救う一言なんて言えない。それは私が優しくないからかもしれないけど、桐椰くんにはそう思ってほしくなかった。


「大丈夫だよ。桐椰くんは、きっと大丈夫」


 何が大丈夫なのかも言えないで、ただ頭と背中を撫でて誤魔化した。

 私の背中に腕が回る頃には、桐椰くんは嗚咽で体を震わせながら、それでも感情を殺すように静かに泣いていた。

 鹿島くんは、その日、生徒会室に戻ってこなかった。
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