第四幕、御三家の幕引
「大体、薄野でさえ総には世話になったと言っているんだ。(いわん)や君をやだな」

「うっ……やめてよ耳が痛い……分かりましたよ……」


 ちらっと桐椰くんを見ると、気付いてこっちを見てくれたはいいけど、「お前が行けよ」といわんばかりにしっしと手を振られてしまった。察しがいいのか悪いのか。


「せめて月影くんついてきてよ……」

「金を積まれても行きたくないと今しがた言ったが、伝わらなかったか?」

「桐椰くん!」

「ったく……。別にいいけど、だったら駿哉も来いよ」

「……仕方ないな」


 私には金を積まれても行かないって言うくせに桐椰くんに言われたら来るのか。今に始まったことじゃないけど相変わらず月影くんの中での私の優先順位どうなってるんだ。

 そうして三人になったとはいえ、七組へ向かうには決死の覚悟。人だかりのせいで松隆くんに辿りつける気がしない。なんなら「順番抜かさないで!」なんて言われた。アイドルの握手会でもしてるのかな。

 でも私の後ろに立っている二人を見た瞬間、はっとした表情に変わった人が何人かいた。「遼くん達なら通したほうがよくない?」「私、桜坂さん見たの何気に初めてだった……」「私も」なんて声も聞こえたので、どうやら私の認知度は百パーセントというわけではないようだ。鹿島くんと付き合ってビッチ呼ばわりされてたとはいえ、自意識過剰だったらしい。


「悪いけど、通してくんね。俺ら別にアイツと握手とかする気ねーから、すぐ終わるし」


 握手会と内心皮肉っていたのは私だけではなかったらしい。そしてその鶴の一声で「ごめんなさーい」なんて声と共に道が開いた。やっぱりこの二人を連れてきて正解だったな……。ただ、歩いてる途中でなぜか桐椰くんが何人かの女の子と握手をするなんて事態は生じた。月影くんはもちろん求められてもスルー、いつも通りすぎて最早特記事項なし。


「あのさぁ……俺いつも思うんだけど、俺と握手してどうすんの? 俺なんか凄い力でも持ってんの?」

「持ってないな」

「前半に答えろよ。なんであえて後半だけ答えるんだよ」

「でも桐椰くん、それは持つ者の余裕だよ。純粋素直な気持ちだとしてもそんなの口にしないほうがいいよ。世の中には手が当たっただけで気持ち悪いって言われる男子もいるんだからね」

「お前は何の立場なの?」


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