第四幕、御三家の幕引
 そして、辿りついた先にいる松隆くんもまた女子に握手を求められていた。教室の後ろには何かが積んであるし、もう取り繕う気もないのか頬杖もついてるし。私達に気付くと、その表情も辟易(へきえき)したものに変わった。


「なに、俺はお前らとも握手しないといけないの?」

「なんでだよ、気色悪い。誕プレだよ、ありがたく食え」


 割り込み失礼します、と次に松隆くんと握手できるはずだった人に会釈すると睨まれた。うん、まぁ当然ですよね。私達、友情特権というか、御三家特権で思いっきり順番抜かししてますもんね。


「はいどーぞ」

「あぁ、うん、ありがとう」


 少し疲れたような表情で松隆くんはお菓子を受け取ってくれた。中身を見ると「あ、俺ここのマドレーヌ好きなんだよね」とすぐに一つ取り出して食べる。よっぽど好きなんだな。


「ん、おいしい」

「それはよかった」

「でも、松隆くん、きっとお菓子たくさん貰うよね? 太らないようにね」

「え? 別に貰っても食べないけど」


 ……なんだと? それを聞いた近くの女子が僅かに身じろぎしたように見えた。松隆くんは、二口めを齧りながら、なにをおかしなことを言ってるんだか、といわんばかりに首を傾げてみせる。


「見知らぬ他人から理由も分からず与えられたものを食べるなんて、危機意識なさすぎでしょ。遼じゃないんだからさ」

「そこは犬とかでいいだろ! 何で俺なんだよ!」

「少女漫画によくいるんでしょ、相手に失礼とか気持ちは嬉しいからとかいってなんやかんや全部食べる男。俺はそういうのじゃないから、毎年再配布。配りきれなかったぶんはお手伝いさんとかに渡してる」


 松隆くん……。私達から貰ったものを食べながら、今から自分に渡されるものは食べないと宣言するなんて、もしかして似非王子ですらなかった……? 適当に女子には優しくするけど、向けられる好意は正直に拒絶すると……?

「なにその、女の敵とでも言いたげな顔」

「いや……なんかこう、折角のもらいものなんだし、無碍(むげ)にするのは……ね?」

「だからいつも言ってるんだよ、俺は別にこういうの食べないし、人にあげるよって。それでもいいってみんな押し付けていくんだから、実際に食べないのも他人にあげてるのも俺の勝手」

「…………」

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