第四幕、御三家の幕引
「そう。北海道って何してるんだっけ」

「知らねーよ、行かねーし」


 しかも私が従うのは当然とばかりにさらりと頷いて雑談を続けるときた。この暴君め!

「確かー、小樽観光してー、旭山動物園行ってー、スキーとスノボ二日間してー、札幌市内観光して帰るんだったと思うよー」

「北海道は毎年そうだな。修学旅行明けに松葉杖をついている生徒が時々いると聞く」

「あぁ、スノボの転び方間違えるヤツいるもんね」

「王子様はスノボもできるのー?」

「できるけど、その呼び方やめてって言ってるよね?」

「えーじゃあ桐椰くんはー?」

「できないことはないけど……なんで?」

「桐椰くんが後ろから松隆くんに激突して押し倒す流れはないのかなって」


 御三家のいつもの他愛ない会話がぶつりと途切れた。ふーちゃんだけが空気に気付いていながらもにこっと花の咲いたような笑顔を浮かべ、松隆くんと桐椰くんの顔は心なしか青ざめている。


「……ねぇ、薄野連れてきたの誰」

「駿哉」

「おい駿哉」

「俺には関係ない」

「ねぇねぇ二人は部屋一緒じゃないのー? ねぇー」

「薄野、回れ右して帰ってくれる?」

「やだよー、もうチケット買ったのに」


 さっさと受付でチケットを購入したふーちゃんはあっかんべーをしてみせた。めちゃくちゃに可愛いのに、さすが御三家、騙されるどころか三分の二が殺意の籠った拳を握りしめている。今までにないタイプの屈辱を与えられたとその目が告げている。恐ろしい。因みに月影くんの興味は既に海遊館のパンフレットに移っていた。

 とはいえ、御三家といえど人の子 (というか妙なところで純粋)、中に入ってしまえばふーちゃんによる侮辱 (?)も忘れて、この場を余すことなく堪能するかのように視線を巡らせる。


「これ、最初はアクアゲートなの? さながら海の道か」

「え、いいじゃん。俺こういうの好き」


 松隆くんの言う通り、海の中を歩いてるような気持ちになるアクアゲートは、百八十度を海に囲まれた幻想的な道だった。平日の朝のお陰か、人もまばらで、いわば水族館日和だった。


「あ、エイだ」

「エイは上から見るのがよかったな……お腹気持ち悪くない?」

「そーか?」


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