第四幕、御三家の幕引
 桐椰くんがその場を収めようとした甲斐なく、また次の情報を持った別の女子が飛び込んできた。多分この子達が飛び込んできてニュースを聞いた瞬間に松隆くんのもとに走ったんだろうな。飛脚かな。


「松隆くんの回答は『そういうことになってんの? 付き合ってないよ』なので、黒です!」

「いやなんでだ?」


 むしろどこからどう聞いても白では? 胡乱な目を向ける私と桐椰くんに、その子はキッと鋭い顔を向けた。


「根も葉もない噂ならもっと全然違うとかそういう返事でしょ! でもって松隆くんか栄一郎さんが薄野さんと付き合うなりなんなりしてるのは確実! それなのに『その噂、兄さんのことだよ』とかも言わないってことは自分のこと! つまり、少なくともお見合い話は進んでるとみるべき!」


 こわ……。その分析に舌を巻く通り越して怯えた。握手会のごとく長蛇の列を作って松隆くんをお祝いしていた子達を見た昨日の今日というのもあるかもしれない。

 でもあの松隆くんがそんな黒と分かるような答え方をするかな……。お兄さんのことじゃないのは確かだからお兄さんの名前は出さなかったし、付き合ってるかどうか聞かれたからそこは否定した、程度の意味しかない気がする……。しかし、最低限の答えはいくらでも妄想……間違えた、想像の余地を生んでしまう。これは女子をなめた松隆くんの負けかも。というか、みんなさも当然のように松隆くんのお兄さんの名前を把握してるんだな。


「いや……待て待て、総は多分付き合ってないからそう答えただけで……」

「じゃあ桐椰くん聞いてきてよ!」


 飛脚の子は桐椰くんの机をバンッと勢いよく両手で叩いた。あまりに鬼気迫るその勢いに、桐椰くんもたじろいだ。


「はい……すいません……」


 いくら御三家の一員とはいえ、あのリーダーの人気とその過激なファンの前では、桐椰くんもただの男子と同じ扱いのようだ。

 結果、一時間目が終わるや否や、桐椰くんは早速七組まで行かされた。今日は昨日のうちに松隆くんと話せなかった人がまだちらほらと来ているのでやはり近づきにくい。が、女子五人にせっつかれてしまえば桐椰くんもどうしようもない、渋々松隆くんのもとまで歩く。


「何? 昨日の今日でやっぱり握手したくなったとかやめてよ、気持ち悪い」

< 160 / 463 >

この作品をシェア

pagetop