第四幕、御三家の幕引
「だから違うって言ってんだろ! お前の頭の中そればっかだな!」

「ここまでされたらもうトラウマだよ。で、何」


 深い溜息と共に向き直った松隆くんに、特別変わった様子はない。昨日も私は何も思わなかったし、やっぱりふーちゃんの噂はただの噂では……。


「あー……っと、もうお前も聞いてると思うんだけど……」

「何を」

「……お前、薄野と付き合ってんの?」

「あぁ、その話ね。朝から何度となく聞かれたけど、付き合ってないよ」


 台詞の通り、松隆くんは煩わしそうな表情をするだけだ。そして今朝また聞きしたのと同じ返事、桐椰くんの背後の女子は到底納得しない。


「えー……と、じゃあ何でそんな噂になってんの?」

「知らないよ、こっちが聞きたいくらい。一緒にいるの見た誰かが勘違いしたんじゃないの? 俺、桜坂以外の女子とあんまり話してることないし」


 松隆くんのいうことそれ自体はそうなのだけれど、この噂の発信源の子の目撃情報はわりと固い。親同士が勝手に言ってることだとしても、松隆くんがそれについて触れないとなると、知ってて隠しているというか――本人のあずかり知らぬことというわけではなさそうな気がしてくる。

 というか、そうなると松隆くんもこんな公共の場では教えてくれないのでは……。女子の目があるのでストレートに聞くしかなかったとはいえ、松隆くんが今この場で何かを教えてくれることはないだろうな……。


「だよなぁ、俺もそう言ったんだけど……」

「松隆くんと薄野さんが結婚すれば将来安泰って話してるの聞いたって子がいるんだけど!」


 その直球は、桐椰くんを盾にするように顔だけ出しながら投げられた。それでも松隆くんは肩を竦める。


「さぁ、知らないよ。本当に結婚って言ったの、それ」

「結婚……とは言ってないけど……」

「だったら勘違いでしょ。これだから女子の噂は……」


 心底呆れ顔で、しかも深い溜息。これ以上の追及は好感度が下がるだけだと察したのか、桐椰くんの後ろの女の子は後ろに半歩さがった。もう好感度下がりきった後だと思うけどな。


「とにかく、折角来たと思ったらそういうくだらない話はやめてくんない」

「折角って口が滑っちゃうの可愛いね、松隆くん」

「うるさいな……分かったらその話もうやめて。朝から散々聞かれてるんだから」


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