第四幕、御三家の幕引
「ご、ごめんなさーい……ちょっと、あんまり気になって、つい……」

「つい。そんな一時的かつ突発的な感情で人の読書を邪魔するほど偉いのか君達は」

「その……一大事だし……」

「君達に総との面識があるとは思えないが、その程度の関係性で大事とは? ただ好奇心の的だというだけだろう? 君達の好奇心の重要性など知ったことではない」

「……でも、松隆くんのことなんだから教えてくれても」

「総と関係のない君達が総のことだから教えろという、その論理が全く繋がらないんだが。大体、薄野は総との見合いはないと答えている。満足する答えがもらえないから追及しているだけだろう。君達には得る必要も権利もない情報を引っ掻き回して、迷惑だと思わないか?」


 逆にそこまで論理的にずけずけ言われると頭に入ってこない。月影くんと接する機会が減るとすぐに耐性がなくなって仕方がない。私でさえこの有様なのだから、ふーちゃんに詰めてた女子なんてたじたじだ。言葉が理解できないせいで納得できないけどなんか月影くんに怒られてるのは分かる、なんて空気が漂ってくる。その証拠に、暫く沈黙が落ちたかと思うと「ごめんなさい……」と小さく謝って図書室から出てきた。慌てて陰に隠れたけど、目があっても無視された。まぁいいんだけど。


「月影くん、ごめんねー、読書の邪魔になって」

「別に、君のせいではないだろう」


 どうやら、女子の壁のせいで、ふーちゃんに私は見えなかったらしい。月影くんとの時間を邪魔しても悪いし、気付かれなかったのは幸いだった。


「大変だよねー、あの王子様の人気。松隆くんのとこにも人が押しかけてるんじゃない?」

「あぁ、外面作りも忘れてさすがに辟易(へきえき)していた」

「そうだろうねー。どこからそんな話が出たんだろうね?」

「実際本当なのか?」

「んー?」


 ふーちゃんが悩んでいる理由は手に取るように分かった。諦めざるを得ないとはいえ、好きな人に誤解されたくないはずだ。特に相手が好きな人の親友となれば。そしてこれを盗み聞きしている私には、完全に野次馬根性しかない。最低だ、ごめんねふーちゃん。そう心で謝りながらも、どうしても聞きたい。

 だって、このタイミングで松隆くんとふーちゃんがお見合いをしているということになれば――。


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