第四幕、御三家の幕引
 月影くんが何を言おうとしていたのか、私には分からなかった。“あの日”の話を漠然としか聞いていない私には想像することしかできなくて、その想像も酷く子供じみていて――考えることをやめた。


「……友達なんだから」


 言い聞かせるようなその関係は、聞くに堪えなかった。

 その場を逃げ出してしまったから、その後の二人がどんな話をしていたのかは知らない。放課後になって、桐椰くんが「昼休み、薄野のとこ行ってきたんだろ?」と首尾を確認してきた。


「どうだった?」

「んー、なんか詰め寄ってる女子はいたけど、松隆くんほどじゃなかった。あとは月影くんが守ってあげててかっこよかった」

「……まぁ、そっか。アイツ、薄野とは仲良いもんな」


 また微妙な沈黙が落ちた。多分桐椰くんも、昼休みの私と同じことを考えている。


「……月影くんってさ」

「アイツが薄野に手出すことはないと思う」


 かと思えば、先に否定された。驚いた顔をするけれど、桐椰くんは至極当然と言わんばかりだ。


「この間の……鳥澤の原因になった一件があっただろ。元々雁屋のことが好きだったってのは薄野も分かってるんだから、今更薄野に揺らいだところで、アイツが薄野に手出すことはねーよ」

「でも……それとこれとは別だし……」

「どうだか。薄野だって不安――つか、嫌じゃねーの。駿哉は薄野と雁屋が並んでる状態で雁屋をとったようなもんなんだから」

「……なんか、桐椰くん、意地悪だね」

「かもな。総が待ってるから、先帰るな」


 じゃーな、と短く言い残して、桐椰くんは足早に去っていった。桐椰くんが苛立つ理由は察するところではあるけれど、どうしようもない。

 だって、こうして私は生徒会室に向かうしかないわけだし。生徒会室に行ったら、鹿島くんが楽しそうに笑って出迎えてくることがどんなに腹立たしくても、今のところはそうするしか選択肢はない。


「昨日今日と、校内は大騒ぎだね」

「松隆くんの誕生日とお見合い騒ぎでしょ? 明貴人くんの耳にも入ってるんだね」

「あの騒ぎが耳に入らないほうがどうかしてるだろ。で、君は今度は松隆と浮気し始めたわけ?」

「しつこく私の浮気を疑うよねー。してないです、彼女のことは信頼しないと嫌われちゃうよ」

「今既に嫌いだろ」

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