第四幕、御三家の幕引
「私の次に彼女を作るときのためのアドバイスだよ」


 コーヒーを淹れて鹿島くんの隣に座る。なんやかんや慣れたこの距離が、実は物理的には第六西で桐椰くんと一緒にいたときの距離と大差ないという事実に、最近気づいて、戦慄(せんりつ)した。形では、鹿島くん側にすっかり収まっているんだということと同義な気がしたから。


「ていうか、ふーちゃんと松隆くんのお見合いはどうなんだろうなー。本当なのかな、本当だとしたらすごい美男美女だけどなぁ」

「松隆から真偽は聞いたんじゃないのか」

「ギャラリーなしで会う暇がないんだもん、松隆くん。そんなんじゃ本当のことなんて聞けないよ」

「ま、本当だろうとは思うけどな」

「そうなの? どうして?」


 私はふーちゃんの話を聞いたから知ってるけど、鹿島くんの情報源はどこに? そんな気持ちで鎌をかけて――失敗したことに気付いた。鹿島くんが一方の口角を吊り上げていたからだ。それは、鹿島くんが私を嗤う合図。


「この時期に薄野との見合いだろ? まぁ、見合いというと大袈裟だけど、付き合ってみたらどうだっていう親直々の勧めなわけだ」

「……仮に本当だとしたら、でしょ?」

「それを本当にするだけの理由があるだろ?」

「……松隆くん、別に女の子とっかえひっかえしてないでしょ」


 今の話だけど。心の中で付け加えたけれど、鹿島くんは全部――私以上に――知っているから、特に意味はない。


「松隆の父親とはもう会ったんだっけ?」

「……それを聞いてどうするの?」

「松隆の父親から、君の両親とは大学の同期だって聞いたんだっけ?」

「…………」

「松隆が問いただせば、松隆の父親も焦るだろうね。自分の息子が、君と存外仲が良いってことなんだから」

「……なにそれ。松隆くんのお父さんは偏見とかないと思うけど」

「偏見って?」

「……不倫相手の子みたいに、出自が、なんていうか、複雑な人とは仲良くするな、みたいな……」


 あくまで勘と印象だ。ただ、そんなことはどうでもよくて、鹿島くんは全然違うことを意図していたらしいというのが、その目の怪しい(きら)めきを見ればわかる。


「……何が言いたいの」

「偏見とかそういう問題じゃなくて、半分血の繋がった兄妹が付き合うのはよしとしないんじゃないか? そういう話だよ」


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