第四幕、御三家の幕引
 ……何? 言われていることの意味が一瞬分からずに眉を(ひそ)めて――気付いて、ゾッと、背筋が震えた。


「……冗談だよね?」

「このタイミングで薄野を勧めるのは、そういうことだろ?」

「……鹿島くんの憶測でしょ」

「自分の息子が、不倫相手の子と付き合うなんて言い始めたら困るから、見合いで先手を打つことにした、なんて、十分あり得るシナリオだけどな」

「可能性としての話でしょ。そんな作り話、誰にでもできる」

「本当に、そう思う?」


 声が震えたせいだ。鹿島くんはここぞとばかりに、私の心の隙間に針をねじ込む。


「ただの同級生のことを、いつまでも気に掛けるかな? かつて親友と取り合うほど好きだった女と、何もなかったと言い切れるかな? 君の父親に捨てられた、君の母親の、心に付け入るのは簡単だったんじゃないか――」

「黙って」


 違う。それは嘘だ。そんなはずがない。それは有り得ない。

 心の中で必死に否定して、なんとかその一言だけを口にした。その一言だけしか口にできなかったせいか、鹿島くんの目は爛々と輝くばかり。

 松隆くんのお父さんが、お母さんのお墓参りをしていたのは、ただ、昔仲が良かったからだ。今でもお父さんと連絡を取り合うくらい、三人揃って仲が良かったからだ。私を食事に誘ってくれたのは、友達の娘だということに加えて、松隆くんと仲が良いってことも分かったからだ。

 ――それなら、私のお父さんも一緒でいいんじゃないの。

 納得しようとして、小さな疑問が、綻びを生む。

 いっときでも恋人だったからお墓参りをしていた? 私を花高に推薦してくれたのに、同い年の息子が通っていることを伝えなかったのは、半分血が繋がっている同士で下手に仲良くなられると困るから? 私を食事に誘ったのは、実の娘と話す機会が欲しかったから?

「おっと」


 立ち上がろうとしてふらついて、あろうことか鹿島くんに抱き留められた。押し返そうにも、足に力が入らないのだからどうしようもない。


「……やめてよ」

「なにが?」

「……ぜんぶ」


 そんなはずがない。これだけは間違いなく、鹿島くんの嘘だ。だって、私達は三人兄妹の目もとがそっくりなんだ。私達が少なくとも半分血が繋がっている証拠なんだ。母親が違う以上、父親が同じに決まってる。

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