第四幕、御三家の幕引

 いやいや、そんなことで不安になるのは今はやめよう。そんな話はどうでもいい。


「……話は戻るけど、なんで急に襲われたの?」

「こっちが聞きたいんだよね、それは」

「恨まれるつーか妬みのネタ散々持ってるもんな、お前」

「少しは同情してくれる?」


 御三家は、意外とこの事件を深刻には捉えていないらしい。誰にやられたのか松隆くんを質問責めにし、松隆くん自身も得られた限りの情報を総合して犯人を推理すると思っていたのに。

 でもなぁ、確かに松隆くんって同性人気なさそうだもんなぁ……。予備校通い始めたら松隆くんのファン層がまた広がるし、それに伴って妬み層も広がりそうだ。こう考えると、松隆くんを襲う犯人なんて絞れっこない。考えるだけ無駄だと三人も思ったのかも。


「──幕張」

「え?」


 不意に松隆くんが口走った名前に、肩が震える。でも松隆くんは顎に手をあてて俯いてるし、二人はその松隆くんに視線をやっていて、私の様子には気が付かなかった。


「そう、話してたんだよね。俺を殴った二人が」

「二人組だったのか?」

「少なくとも二人。俺に聞こえたのは二人分の声だけだったから。で、話しぶりを聞く感じ、殴ったのとは別のほうが幕張って呼ばれてた」

「具体的には?」

「『死んだか』『死んではないだろ、そんな簡単に死にやしない』『じゃあどうする』『殺したいなら殺せばいーじゃん』『別にそこまで思ってない』『じゃほっとけばいーじゃん』って。その後に多分幕張のほうが先に帰ろうとして、『待てよ幕張』って聞こえて、そこから意識飛んでた」


 ゾク──と少しだけ背筋が震える。殺す気だったのだろうか。松隆くんは何も言わないけれど、何で殴られて、どの程度の怪我を負ったのだろう。ぎゅ、とスカートの上で拳を握りしめた。


「中身ねぇ会話だな、何もわかんねぇ」

「ね。わざとらしいってほどわざとらしい会話でもなかったし……」

「つか、気になるのは幕張だよな」


 月影くんが私に視線を向けることはない。視線を向けることが嫌疑の証拠だから。


「最近聞くんだよ。誰にやられたか分かんねーけど、連れに幕張って呼ばれてるのは聞いた、って話」

「連れねぇ……。俺達が中学のときの幕張の連れって菊池だったわけだけど、その菊池は何も知らないって言ってるわけだし……」


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