第四幕、御三家の幕引

「俺も桜坂と同じ考えかな」


　松隆くんと私が同じ──その部分に、過剰に脳が反応する。

『半分血の繋がった兄妹が──』

　違う。あれは、鹿島くんの嘘。あれだけは絶対に嘘だ。

　そう言い聞かせるのに、握りしめた拳が震えた。気付かれないように、そっと息を深く吸う。


「今まで完全に消息不明だったのが前触れなく出現したって、不自然過ぎる話だからね。幕張が復活したってよりも、幕張を騙(かた)った誰かがいるってほうが合ってる気がするよね」

「……俺も同意見だな。問題はそれを騙る意味だが、おそらく俺達がそう考えることは想像の範疇(はんちゅう)だろう。ということは、幕張本人を誘き寄せたいんじゃないか？」


　本人(わたし)を……？　それこそ何のために？

「本人、ね……。二年以上経ったのに、今更？」

「二年あればお前が幕張に襲われる理由はなくなるかもしれんが、幕張を誘き寄せる理由は消えないかもしれん」

「それはそうか……。ま、俺達は幕張のこと何も知らないしね。桜坂、何か知らないの？」

「……知らない」


　寧ろ私が知りたいくらいだ……。大体、鹿島くんは幕張匠なんてどうでもいいみたいな態度だったのに、幕張の偽物が現れるのは一体……。


「ま、なんで俺が襲われたのかは知らないけど、みんな気を付けてね。桜坂は彼氏にちゃんと送ってもらったほうがいいんじゃないかな」

「……ソウデスネ」


　寧ろ襲ってくれといってるようなものだけどな、それ。

　でも、鹿島くんが直接手を下すはずはない。きっと松隆くんを襲った二人の一方は鶴羽樹だ。問題はもう一人……。


「ま、そんな感じで、俺は怪我が酷いから暫く学校休もうかな」

「酷くねーだろサボりだろ。ちゃんと来い」

「頭痛するから教師の声が聞くに堪えない」

「それはいつもだろ」

「もう少し病人に優しくしてくれる？」

「だったらもう少し病人らしくしろよ」


　意外と元気な様子に安心したけれど、状況には安心できない。鹿島くんには、鶴羽樹以外にも協力者がいるのだろうか。





　その人がやってきたことは、一瞬で変わった店内の雰囲気で分かった。


「ご無沙汰しております」