第四幕、御三家の幕引
 その会話のせいか、今までと違って一歩離れたところから見ているせいか、二人が全然知らない人のように見えた。イケメンだなぁ、とは日々思ってはいたけれど、それを再確認してしまった気分だ。他の花高生とは違って垢ぬけているというかなんというか……。スタイルの良さなのか顔の良さなのかは分からないけど、どことなく醸し出す雰囲気は、きっと誰が見ても素直に格好良い。


「あ! カワウソ!」

「……可愛い」


 ……たとえカワウソの水槽の前で目を輝かせて立ち止まり屈み込んでしまうとしても、二人はイケメンだと思う。

 きらきらした顔で二人はカワウソの前から動かなくなった。何匹かいるカワウソは忙しなく動き回ったり、水に潜ったり、かと思えば小休止でもするようにゆったりと寝転んでいたりする。どうやらコツメカワウソとかいう小さい種らしい。確かに、これぞ小動物と言わんばかりの見た目だ。


「餌やりあるじゃん」

「何時?」

「十一時半だって」

「ちょっと時間潰して戻る?」

「これって順路無視して戻っていいの?」

「混んでないからいいんじゃない? だめかな」

「まぁ時間あるからここで見ててもいいよな」

「そうだね、飽きないし」


 カワウソに飽きないと迷わず言い放つリーダー、キャラ崩壊もいいとこだ。松隆くんの性格なら「同じ生き物ばっかり見てても時間の無駄」と言ってもいいはずなのに。


「桜坂は興味ないの? カワウソ」


 白い目を向けていたのがバレたのか、苦笑いが振り向いた。興味はないといえばないけど、どちらかといえばカワウソを見ている二人のほうが物珍しくてじろじろ眺めてしまっただけだ。


「……動物はちょっと苦手かも」

「そうなの?」


 そっと、その指先が水槽に触れる。その指先にカワウソが寄って来てくれないかなと期待しているように見えた。


「……うん」

「どうして?」

「……生きることをこっちに依存するから」


 松隆くんの余所行きの顔は崩れなかった。その隣でじっとカワウソから視線を外さない桐椰くんの横顔も変わらなかった。ただ、代わりに、少しだけ身じろぎしたような気がする。


「……依存ね」


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