第四幕、御三家の幕引
 異様といっても過言ではないかもしれないレベルの姿勢の良さ、それに見合う身長と顔。女子じゃなくても振り向かずにはいられない、そんな深古都さんが私に深々と頭を下げるので、ヒイッと私は縮み上がった。


「あ、こ、こちらこそご無沙汰してます! あの頼み事があるのは私ですし、わざわざ出てきてもらいましたし、私はふーちゃ──薄野さんの友達なだけなので、そんなに畏まっていただく必要ないんで!」


 致命的な私の敬語力が恨めしい。深古都さんは低姿勢なのに、私はまともな言葉遣いさえできないなんて。


「いえ、お嬢様のご学友ですから。失礼があってはいけませんので」


 顔を上げた深古都さんは、顔に仮面でも貼りついているかのような無表情だ。ツッキー以上に無表情な人なんて、正直初めて見た。


「先日は私の同期が大変失礼をしました。私自身も年甲斐もなく声を荒げてしまい……」

「いや、あの、あれは彼方が悪いと思うので全然いいです」


 というか、早く座ってほしい。この深古都さんに立ったまま謝罪させるあの女の子は一体どこのお嬢様なんだろう、みたいな視線がいたたまれないから。

 漸く座ってくれた深古都さんは「それで?」と早速切り出した。


「頼みごととは?」

「えっと……その、調べてほしい人が、いまして……」

「私は探偵でもなければ興信所でもないんですがね」

「すいません……」


 ごもっともだ。


「ま、構いませんけどね。誰を調べてほしいんです?」

「え、いいんですか?」


 一言嫌味を投げただけでさらっと了承され面食らった。深古都さんはブラックコーヒーを飲みながら渋い顔さえ見せない。


「お嬢様のご学友の頼み事ですからね。特別ですよ」


 ふーちゃんと深古都さんの主従レベル、つくづく凄い……! 現代にこんな厳格な主従があるなんて思いもしなかった。


「とはいえ、お嬢様を通してお願いされれば断る術はなかったのですが、なぜお嬢様は通さずに?」


 深古都さんのご主人様はふーちゃんだから、ふーちゃんに断りを入れるのが筋といえば筋、か……? ただ、鶴羽樹の名前を出すと、鳥澤くんの件に始まり、月影くんの件、八橋さんの件まで芋づる式に一気に知られてしまうので、軽率にふーちゃんに伝えるのは気が引けた。


「……あまり巻き込みたくなくて」

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