第四幕、御三家の幕引
「……調べる相手が相手だとそうなるかもしれませんね。で、調べてほしい相手というのは?」

「……鶴羽樹という人なんですけど」

「……聞いたことないですね。漢字と年齢は?」


 鶴羽樹の個人特定情報みたいなものをいくつかメモした後、深古都さんは「ふーん」と素の出た頷き方をした。


「鶴羽、鶴羽……。字面にも見覚えはないし、うちにはいないな……」

「あ、その周りに鹿島明貴人……と、八橋海咲って人がいたら、関係も調べてもらえないですか? できたらでいいんですけど……」


 八橋さんのお姉さんの名前まで出したのは、勘だ。二人のどちらかとは何かしらの関係があるはずだという。深古都さんは少し考え込んだ後、やはり名前の漢字や年齢を聞いた。


「しかし、鹿島明貴人と八橋海咲ですか……。鹿島家の長男でしょう、何の手出しをするおつもりで?」

「うげ」


 だがしかし、そうだ、深古都さんのご主人様は松隆くんとお見合いするレベルのお嬢様のふーちゃんだ。鹿島くんを知らないはずがない。深古都さんに頼むのが吉と出るか凶と出るか微妙なところになってきた。


「浮気調査ですか? ただの痴話喧嘩なら私の関知するところではないのですが」

「違います! ……っていうか、え、深古都さんご存知で……」


 ひくっと頬をひきつらせる私にも、やはり深古都さんは無表情だ。淡々と「えぇ、うちのお嬢様は学校生活のお話をよくなさるので」と。


「……断じて浮気調査ではないです」

「そうですか。それなら構いませんが。私に聞くということはこの鶴羽樹が悪さでもしてるんでしょうかね」


 手帳に書かれた「鶴羽樹」の名前をボールペンでコンコンと叩いてみせる。その通りだ。そして深古都さんの字は硬筆でも習わされていたかのように綺麗で癖のない字だ。どこかで見た覚えのある字だと思っていたら、松隆くんの家の筆頭お手伝いさんである弓親さんと似ていた。執事やメイドは綺麗な字を求められるのかもしれない。


「いいですよ、地元に残っている同期と後輩、現役組に聞いてみます。ただし、花咲高校周辺は管轄外ではあるので、あまり期待しないでください」

「ありがとうございます」


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