第四幕、御三家の幕引
 思ったよりすんなりと受け入れてくれた……。暫くは情報を待つだけになるけど、これで鹿島くんの目的さえ分かれば、後手に回りがちな今を打開できるかもしれない。


「話は変わりますが、交換条件をいただいても?」

「え、交換条件ですか」


 ふーちゃんの友達だから特別なんじゃ? そう言いたいのをぐっと堪えて聞き返すが、やはり深古都さんは無表情。松隆くんのようににんまり意地悪い笑みを浮かべることさえない。


「もちろん、有益な情報が手に入ればという成功報酬で構いません」

「えー、と……私にできることであれば、それはぜひ……」


 全然知らない人相手に急に頼みごとをするなんて不躾にもほどがあるわけだし、でも私にできることってなに? 松隆くんみたいに下僕を探してる? いやいや深古都さんはきっとこんな礼儀も行儀もなってない小娘よりもっときちんとした下請けを探すはずだ。下僕人生その二を歩むことにはならないだろう。じゃあ一体……。


「松隆総二郎を誘惑してくれます?」

「ぶっ」


 アイスティーを盛大に吹き零した。「すいませんすいません」と早口で平謝りしながら慌ててテーブルを拭き、深古都さんが頼んでくれた新しいおしぼりでもう一度テーブルを拭いた。盗み見た深古都さんはやはり無表情だった。


「……あの」

「もう一度言いましょうか? 松隆総二郎──」

「パワーワードなので二度言わないでください! え、いや、え? なんでですか?」


 松隆くんを……誘惑しろ? 無理無理、寧ろ手を出したら誘惑される気しかしない──じゃなくて、私にできるはずがないし、そもそも私がどの面下げてって話だ。そして深古都さんがそんなことを言うのはなぜだ。


「……も、もしかして深古都さんとふーちゃんって許されぬ恋的な……」

「お嬢様の妄想癖が伝染してしまったようで、深くお詫び申し上げます」

「そんな丁寧な言い方に騙されないですよ私! 今めちゃくちゃディスりましたよね!?」

「これは内密にしていただきたいのですが、お嬢様と松隆様のご子息がただいま結婚を前提に付き合うことを周囲から勧められておりまして」


 私の叫びを華麗にスルー、そしてやはり無表情。あとお見合い話がガチなのはふーちゃんと月影くんの話を盗み聞きして知っている。桐椰くんが知っているのかは知らない。


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