第四幕、御三家の幕引
「立場上、お嬢様が断ることはできないのですが、お嬢様は気が進んでおらず、幸いにも松隆様のご子息も乗り気ではないということで破談にしたいというのが双方の要望なのですが、松隆様とご主人様の御意向としてはぜひこのまますすめたいと」

「え、あ、はぁ……でもそれなら松隆くんが断れば……」

「ご子息─―総二郎様とお呼びしましょうか、総二郎様の女性遍歴に頭を抱えた松隆様としてはしかるべき家に相手を作っておかないと安心できないようでして」

「私、しかるべきもくそもない家なんですけど」


 なんなら本当は桜坂家の人間ですらない。


「桜坂様のお父様は松隆様の大学在学中のご学友でしょう」

「……なぜそれを知って」

「常識です」


 常識……? 常識ってなんだ……私と深古都さんは世界線がずれているのか……? そうだ、そうに違いない……。


「ご自身の旧友の娘さんとなれば松隆様もご安心するんではないでしょうか」

「いや、そう上手くは……」

「松隆様がお認めにならなくとも、総二郎様の女性関係が許嫁一つで解決するものではないと思わせるだけでも十分です」


 ……つまり、松隆くんはふーちゃんという許嫁がいても私とかいうどこの馬の骨ともしれない女子と遊ぶんだから意味ないぞと松隆くんのお父さんに分からせろと……? 丁寧語に騙されそうになるけど、深古都さん、さっきから結構失礼なこと言ってるな。


「それに、この条件は桜坂様にもメリットがありますよ」

「今のところ全くありませんでしたけど……」

「桜坂様は鶴羽樹の情報を得るのに期限を定めませんでした。一方でお嬢様と総二郎様のお見合いは私達の手の届かぬところで着々と進行します」


 前半に関してはぐっと詰まった。しまった。でも、鶴羽樹のことは取引でもなんでもない、私の頼みごとなのだから、期限を設定するなんてもとより不可能だった。


「私が提示している交換条件は、この現在進行中のお見合いを破談に持ち込むことです。つまり時間がない。ということは、この交換条件を実行してもらうために、私は一刻も早く、あなたに鶴羽樹の情報を提供しなければならない。いかがですか?」


 愕然とした私に、深古都さんは初めてにっこりと笑った。


「悪い話ではないでしょう?」


< 183 / 463 >

この作品をシェア

pagetop