第四幕、御三家の幕引
 いや、だいぶ悪い話です、というのが本心だったけれど、鶴羽樹のことが最優先事項でもあった。


「……お、ねがい、します……」


 頼みごとをするのもいいですけど、相手は選びましょうね──そう言われたような気がした。

 とはいえ、鶴羽樹の情報はあればすぐに貰えるだろう。よしとしよう。

 そう気を取り直した数日後、次はその日が迫っていた。


「松隆くん……あのさ、服って……どうすればいいのかな……」

「服?」


 わざわざ七組まで来て何の用かと思えば。松隆くんはそんな顔をしていた。因みに、包帯もとれて、松隆くんは何事もなかったかのようにいつも通りに登校している。


「何の服? まさか土曜の?」

「まさかも何もないよ、当たり前だよ」

「適当でいいんじゃないの」

「ドレスコードは!?」

「あるだろうけど」

「ほら!」


 だから聞いてるんだよ! と睨みつけるも、松隆くんはどうでもよさそうに首を捻る。


「まぁ……桜坂って私服も派手じゃないし、いつも通りのでいいんじゃない?」

「安っぽい服しか持ってないんだけど」

「じゃあ制服でいいんじゃないの」

「あ、制服かぁ……」


 安っぽい私服という点を否定されなかったのはさておき、そう言われたらそれでいい気も……。でも土曜日にわざわざ制服着るのって変じゃない? いかにも服を持ってませんみたいな感じがする? でも松隆くんと松隆くんのお父さんなら気にしないかな?

「うーん……」

「なんなら昼間買いにいく? 適当なワンピース着ればいいんじゃないの」

「うーん……ワンピースか……」


 ドレスコードに合わせて買おうとしたら一万円は超えるかも……。しかもワンピースを買ったら、今度はパンプスがない問題が浮上する。となると予算は一万円では収まらない。先月は修学旅行に行ったし、今年は模試も多いし、余裕はない。修学旅行費も模試代も、あの人は(いと)わず出すのだろうけれど、あまりいい気はしない。借りを積み重ねる──という表現が適切かは分からないけど、とにかく、桜坂家に私を負担させることに複雑な気持ちがある。引き取られて養われておきながら何を言ってるんだ、と嗤われそうな気持ちではあるけれど。


「うーん……いや、やっぱり制服にする……」

「そう。折角デートの口実できたと思ったのに」

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