第四幕、御三家の幕引
 笑みを崩さない鹿島くんはやはり崩れない。もういいよ、なんて匙を投げたくなるけどそうもいかない。隣に座って膝を抱え、くるくると回りながら「はぁー」と溜息を吐いた。


「もー、いい加減にしてよ……私だって鹿島くんにばっかり構ってられないんだよ? 受験勉強始めないといけないし」

「国立以外駄目なんだっけ?」

「そうだよ、あの人のためにね」


 鹿島くんだけが私の家庭事情を全て知っているせいで、鹿島くんには何でも話せるなんて、皮肉なものだ。


「正確には国立じゃなくても名の通った私立でいい、っていうか多分あの人的には地方国立よりそのほうがいいんだけど。そうなると学費高いし」

「そもそも君も地方に行きたいし?」

「その通りです。でも、勉強してて思ったんだけど、私、やっぱり地頭が悪いから無理」


 絶対に、言い切れるのだけど、御三家の誰よりも私の勉強時間は長いと思う。少なくとも桐椰くんより圧倒的に可処分時間が多くて、その分桐椰くんより勉強してると思う。それでも桐椰くんがひょいと私の上をいくのが現実だ。


「御三家と一緒にいればそう思うのも無理はないだろ。あの三人は頭が良い」

「鹿島くんって御三家の頭が良いのは認めてるんだね」

「そうだな、三人の成績がいい話はこの間もしただろう」

「そういえばそうだったねー。明貴人くんの話は大事なことが多すぎて大事じゃないことは忘れちゃうんだよね」


 生徒会室の扉が開いて桐椰くんが入ってきたので、慌てて呼び方を変えた。気付いた鹿島くんは「丁度良かった、仕事」なんて分厚い封筒を差し出した。桐椰くんは舌打ちしながら受け取り「今度は何だよ」「卒業式の段取り」とそのまま事務連絡を始めた。

 椅子に座って再びくるくる回り、鹿島くんが構いなおしてくれるのを待つ。すると背もたれを強く掴まれた。


「なに?」

「視界の隅で動かれると目障りだ」


 ギクッと固まってしまったのは、にっこりと微笑む鹿島くんが怖かったからではない。机を挟んで向こう側にいる桐椰くんが凄い形相(ぎょうそう)で私達を見ていたせいだ。


「すいませんでした……」

「お前こそいちゃついてねーで仕事しろよ」

「彼女が分別なくて、悪いね」

「私が悪いみたいに言わないでよ」

「今のは10:0で君が悪いだろ」


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