第四幕、御三家の幕引
「一応、その、ほら、少し前に明貴人くんが言ってたみたいに、松隆くんのお父さんと私のお父さんが昔の友達らしいから、話すことがあるのかなって思ったんだけど、それにしては誘われたの私だけで、よく意図が分からないなぁって……」

「で、何で俺に言わなかったの」

「だ、だって桐椰くんに言う理由ないし……」

「彼氏の俺でさえ聞いてないから、ただの友達の桐椰に言う必要はないよな」

「ちょっと明貴人くん! 火に油を注がないでくれるかな!」


 この私の発言が余計に火に油を注いだのだろう、桐椰くんの目が一層冷ややかになった。いや、そもそも「桐椰くんに言う理由がない」というのもまずかった気はする。咄嗟に口走ってしまったし、実際理由はないけれど、言い方がまずかった。


「で、会食はどこで?」

「え、知らないけど……」

「聞き方を変える、どういうところで?」

「えーっと、どこかの料亭かレストランなんじゃないかな……ちょっと高級な感じのところらしいけど……」


 ドレスコードがあるようなところとしか聞いてないけど、要は高級な感じのところで間違いはない。なぜそんなことを聞かれたのかと思えば、鹿島くんはスマホを取り出して頷いた。


「今週は空いてる。着ていくものを買いに行くか」

「え、なんで! やだよ!」


 なんでよりによって鹿島くんと!? しかもこの状況 (桐椰くんに睨まれてる)で鹿島くんとデートの約束をするなんて冗談じゃない。


「言っとくけど君に拒否権ないぞ。彼女が安っぽい恰好で松隆の父親と食事してたなんて言われて損するのは俺だ」

「そうやっていつも明貴人くんは自分の損得しか考えてないよね! 私だって──」


 鹿島くんとデートするなんて、桐椰くんにも松隆くんにも睨まれるし、下手したら月影くんにも「随分と周到な演技だな」と罵られる。だから鹿島くんとのデートなんて損しかないんだけど、と続けようとしたけど、桐椰くんの前でそれは言えなかった。偽装彼氏彼女とバレるからだ。いや、最初から隠せてなんかないけど、それに甘えるのは違う気がした。


「決まりだな。松隆の父親との会食はいつ?」

「……土曜日」

「じゃ、昼間に買いに行ってそのまま着て行け」


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