第四幕、御三家の幕引
バチバチと桐椰くんと火花を散らして睨みあっていたのを鹿島くんが止めるなんて、冗談でも当初は想定できなかったことだ。ふんっ、と私は桐椰くんから顔を背け、桐椰くんだって「明日やる」と鹿島くんから貰ったばかりの封筒を机に放り込んでいなくなった。私だってイライラしてるんだから! 苛立ちに任せて乱暴に座れば「備品は丁寧に扱え」と怒られた。余計にイライラする。
「桐椰も馬鹿だな。松隆の父親と会食なんて、バラして得することなんてないのに」
「それだけは分かる。分かる! なーんでそんなこと言っちゃうかな!」
初めて鹿島くんに同意した。桐椰くんめ!
「大体、なんで桐椰くんは鹿島くんに私とチューしたなんて話してんの」
「鎌かけたらゲロったんだよ、桐椰が。馬鹿だからな」
「馬鹿を連発しないであげてください。で、なんで桐椰くんは松隆くんから会食の話なんて聞いてるの」
「さぁ、後からバレるよりは先に伝えておこうと思ったんじゃないか、松隆が。今は薄野と見合いしてる最中だし、下手したら君ともお見合いするんだって桐椰が勘違いする可能性を考慮したんだろ。仮にお見合いだった場合は家任せの抜け駆けもいいとこだしな」
しっくり納得する冷静な分析だった。そうだよね、そのくらいの理由がないと勝手に話したりしないよね。
「本当、君は、予想以上の成果だよね……」
不意に耳に飛び込んできた呟きに、苛立ちも忘れて鹿島くんを見る。鹿島くんは私を見ていた。睨むでも笑うでもなく、ただぼんやりと考え込むような表情で。きっと、私の方を見ているだけで、私を見てはいない。さっきの呟きだって、思わず零れてしまったかのような、一滴の雫のように小さな声だった。
「……ねぇ、鹿島くん」
「ん、ああ、何だ。薄野の服は二ットワンピースくらいなら着れるんじゃないか」
「桐椰くんといい失礼だよね本当に。そうじゃなくて──」
先程の冷静な分析は、何のため? 私が“成果”って何? それを喜ぶでもないその表情の意味は?
鹿島くんのこと、幸せにしてあげてください──。八橋さんの声がそのまま蘇る。土曜日のデートって、まさか本当にデート……。
「桐椰も馬鹿だな。松隆の父親と会食なんて、バラして得することなんてないのに」
「それだけは分かる。分かる! なーんでそんなこと言っちゃうかな!」
初めて鹿島くんに同意した。桐椰くんめ!
「大体、なんで桐椰くんは鹿島くんに私とチューしたなんて話してんの」
「鎌かけたらゲロったんだよ、桐椰が。馬鹿だからな」
「馬鹿を連発しないであげてください。で、なんで桐椰くんは松隆くんから会食の話なんて聞いてるの」
「さぁ、後からバレるよりは先に伝えておこうと思ったんじゃないか、松隆が。今は薄野と見合いしてる最中だし、下手したら君ともお見合いするんだって桐椰が勘違いする可能性を考慮したんだろ。仮にお見合いだった場合は家任せの抜け駆けもいいとこだしな」
しっくり納得する冷静な分析だった。そうだよね、そのくらいの理由がないと勝手に話したりしないよね。
「本当、君は、予想以上の成果だよね……」
不意に耳に飛び込んできた呟きに、苛立ちも忘れて鹿島くんを見る。鹿島くんは私を見ていた。睨むでも笑うでもなく、ただぼんやりと考え込むような表情で。きっと、私の方を見ているだけで、私を見てはいない。さっきの呟きだって、思わず零れてしまったかのような、一滴の雫のように小さな声だった。
「……ねぇ、鹿島くん」
「ん、ああ、何だ。薄野の服は二ットワンピースくらいなら着れるんじゃないか」
「桐椰くんといい失礼だよね本当に。そうじゃなくて──」
先程の冷静な分析は、何のため? 私が“成果”って何? それを喜ぶでもないその表情の意味は?
鹿島くんのこと、幸せにしてあげてください──。八橋さんの声がそのまま蘇る。土曜日のデートって、まさか本当にデート……。