第四幕、御三家の幕引
「……了解です、脱いできます」

「そのまま着ていくのでタグ切ってもらっていいですか?」

「大丈夫ですよー、在庫確認してきますね」

「…………」


 私の意思などやはり無視。試着室の扉を閉めて店頭に出ていたものを脱いでいると、暫くして新品が差し入れられた。因みに脱いだ服のタグを見ると、上下合わせて二万を超えていて目を疑った。予算オーバーどころではない、持ち合わせがない! でもタグを切られた後に「買いません」は不可能だ!

「あ、あの、明貴人くーん……」

「……次は靴か……」


 そうじゃない、着替えて出てきたと思ったらローファーを履いた私に呆れ顔をしないでほしい。そうじゃない。


「あー、の、ね。こんなことを言うのはプライドが許さ……くつじょ……申し訳ないんだけど、お金をすこーし貸して欲しいなー、なんて……」

「ああ、これは君への貸しにするつもりなので問題ない。もう払った」

「うっそ!」

「だから早く制服を出せ。代わりにショッパーに入れてもらうから」

「え、二万円分の貸しこわ!」


 店員さんが私の脱ぎ捨てた制服を回収しようとしてくれたので、慌てて私が手に取って渡したけど、一体何がどういうことだ。制服を畳む間、店員さんはうっとりにっこり笑ってくれた。


「今日はお買い物デートですか? 素敵ですね」

「いや……まあ……そうですね……」

「高校生のデートで服買ってあげるなんて、可愛くていいですよねー。私、そういうデートすっごい憧れあったんですよ」

「めっちゃ分かりますー! っていうか、彼氏さんすっごいかっこいいですよね!」

「ほんとに! っていうか男の人って買い物面倒くさがって付き合ってくれないじゃないですかー。率先して彼女に似合う服選んでくれるなんてないですよね!」


 張本人の私など蚊帳の外で店員さん同士が盛り上がる。あの男の本性を知らなかったら私も同じようにはしゃげたかもしれないけど、無理だ。っていうか多分、松隆くんと桐椰くんが二人でお店の前を通っただけでその感想全部吹っ飛ぶと思う。鹿島くんの奇行の中でも私に物を買い与えるという奇行、気まぐれな無駄遣いと思えばその程度のものだ。


「ありがとうございましたー」

「次、靴」

「うわー、二万円の貸しかー、嫌だなー、怖いなー」

「二万円分働けよ」

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