第四幕、御三家の幕引
 それにしても、そこまでする必要はないのでは……。服と靴だって、鹿島くんとか松隆くんみたいな家の人にとっては四万円程度端(はした)(がね)なのだろうか。私は十円でも鹿島くんに遣うのは無駄だと思うけどな。


「まあいーよ、四万円の借りはさすがに大きすぎるからコーヒー代くらい出してあげるよ」

「利息分カウントで借金は減らないからな」

「嫌な男! 明貴人くん本当に嫌な男だよそれ! ……明貴人くんさあ、蝶乃さんともこういうデートしてたの?」


 思うがままに喋っていて、思うがままに喋っていたことに気付いた。なんの頓智(とんち)だって話だけど、鹿島くんが蝶乃さんとこんな会話をするはずがないし、私と話すときの蝶乃さんを思い出すと鹿島くんとどんな話をするのか想像もできなかったから。


「急に何、嫉妬か」

「いや全然、嫉妬のしの字も感じてないんだけど、疑問はぎからんまでぎっしりだよ」

「あんまり話──会話のキャッチボールみたいなものはしなかったな……。彼女はよく喋るから、相槌を打つことのほうが多かった」


 一生懸命思い出すような顔をしてもその程度か。そういえば、鹿島くんが蝶乃さんと別れたときの言葉は知っているけれど、素からは程遠い猫かぶりの鹿島くんだった。


「BCCのときは競技の都合で色々言いはしたけど、正直、お互い興味がなかったんだろうな」

「あー、蝶乃さん、桐椰くんのこと大好きだもんね」

「酷いフラれ方をしたけどな。あれはお互い幼稚だろ」

「んー……」

「歌鈴の性格からすれば、あの場で丸く収めることを言ったところで丸く収まることはなかったとは思うけどね。あぁ、そう考えると、はっきり歌鈴を切った桐椰が正しかったのかもな」

「……明貴人くんと蝶乃さんが付き合ってるときってどんな感じだったの? デートとかした?」

「たまには。お互いの交際相手として家のパーティに顔を出すことはしなかったけど、こういうデートはした」

「蝶乃さんのお買い物にひたすら付き合うみたいな?」

「そういう感じだな」

「楽しくなさそうだね」

「お互い興味がなかったからな」


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